小説・耶律大石 第二章(01節)

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 小雪が舞い落ちる中 耶律磨魯古は40頭の馬に荷を左右に振り分けて積ませ、その馬を警護するように毛皮の衣服を着る若者、三十名を叱咤している。 黄河を離れ 北上して行くこの一団は陰山山脈の黒々とした山肌が迫る谷筋を進んでいた。 蒙古草原に向かう隊商が行き来する道ではあるが、迫りくる寒気と疲労で その歩みは鈍い。

耶律磨魯古が率いる一隊は兵士達 毛皮の衣服は粗末であった。 その下には革製の防具を身に着けている。 身に付けられる衣服を全て着込んでいる。 みな若かった。 しかし、磨魯古を含め 燕京で生まれ、華中で育っている。 大志があるとは言え、黄河を離れて五日 疲労が溜まっていた。 だが、小休止となれば笑いが絶えなかった。

バヤンノールの 臨河村落を離れて三日、昨日から風雪に中を曹舜と畢厳劉に何亨理が陰山山脈西端部の谷筋を北上している。 モンゴル草原に抜ける隊商路である。 耶律大石と石チムギに耶律楚詞の三名を中核として小雪舞う谷を登行していた。 舜、厳劉、亨理の三名が五六馬身先行しているのであるが、後続する耶律大石に石チムギ、耶律楚詞、耶律遥の四騎と替え馬3頭が続いていた。 大石が操る騎馬の歩みに合わせるように7騎一行であるが、先頭の三名と大石たちとの五六馬身差の間に舞う粉雪で互いの姿は霞んでいた。 畢厳劉と何亨理が前方に注意を払い、耶律楚詞と耶律遥が最後尾で大石とチムギを守っている陣容のようだ。

昨夜は広々とした河原で簡易なパオを設けて野営したが、昼餉を取った以降の谷筋は、黒々と陰湿であり 舞う雪も激しくなっていたのである。 その谷筋は登るにつれて狭くなり、両岸がそそり立つ 所謂、ゴルジュ帯を登行しているのだ。 各自が予備の馬を曳き、羊の防寒服で身を蔽っている。 酷寒さはマイナス40度か、舞う雪は体に纏わり付くことなく 衣服を覆うことは無い。 騎馬の足元の雪も積もる事無く、さらさらと流れていた。

 

「楚詞、人の笑い声がきこえるようじゃが・・・・」

「はい、統師さま、いや 兄上。 私の 耳にも 人の笑い声のように思えます」

「曹舜殿と畢厳劉殿、二人して 一足 先を窺ってきてくれまいか この雪じゃ、隊商が行き来しているとは 思えぬ 」

「 はい、直ちに・・・・・」と憮然と答えるも、「統師殿、 我等に殿とは呼ばぬ約束。 五原を去る折 チムギ殿の命に服するも 統師さまの兵になると我等四名は誓っております。 チムギ殿も お困りでしょう 」

「・・・・これは迂闊、 磨魯古が出立して十と二日 我らを黄河に出ず、ウラトに抜ける道を急いだが・・・・磨魯古たちは はや 峠を越えて草原に入っていようと思えば、あの笑い声らしき物音が気にかかる」

 

曹舜と畢厳劉が乱舞する雪を突いてその白き幕の中に先ほど消えて行った。

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「・・・・それにしても、チムギ殿は健気ですなぁー 女人とは到底思われぬ 」

「統師さま、 そのお言葉も・・・女人とは考えぬ約束のはず・・・・」

「これまた、迂闊、 楚詞 笑うで ない 」

「兄上こそ 笑っておられるではないですか・・・・・」

「統師さま、 お伺いしてもよろしいでしょう・・・・・・」

「チムギ殿 なにごとかな 」

「はい、 失礼かもしれませんが・・・・統師さまは私どもの 火の神ミスラさまに深いご理解を頂いておりますとか 兄より聞いております・・・・」

 

「そうでござったか、 義兄に当たられる 安禄明殿から教えられて・・・」

「・・・・小雪が舞う中、馬に揺られながら 話すのは 都合がいいかも知れぬ 」

「私も 聞きたいです、父より 少しばかり聞いておりますが・・・・」

 

「楚詞も聞いておくがいい、 進士に成ったのが27歳の春であったかのぉー 翰林院に参内してすぐ、安禄明殿にお会いした。 二人とも若かった、 時を忘れて 毎夜 話をした。 当時、儂には妃がいた。 名は昭徳蕭と申して、美しい女子じゃつた。 子供も五人授かっておった。 姫は二人 可愛かったのぉ・・・」

「昭徳蕭さまの お美しさは 父より伺ったことがございます 」

 

「・・・ あれは忘れもせん、珍しく都に 11月 雪が舞った日であった。 何者かに昭徳蕭と我が正嗣の皇子三人と姫二人 総べたが 一夜にして 殺害されてしまった・・・・・・、

その夜は 明殿の家で遅くまで話し込んでいて 下僕がはしりこんできたのじゃー」

「なんと・・・・・」

 

「       儂の父は 幼いころに死に 血を分ける姉妹兄弟は居らぬ、 一夜にして愛する妃と家族を亡くし 打ちひしがれてしまった。 30歳であったかのー ・・・・・・ ある日 明殿が アフラ・マズダーザラシュトラ様の話を聞かせてくれた。 また、秘密の集会にも連れて行ってくれた。 何時しか 儂は 一人で 密かに参集に加わるように成ったのじゃ」

「以来、アフダ・マズダ様とブッダ様と昭徳蕭が儂の心の中に何時もおる。 ハァハァハァー 若い二人には ちと、心を痛める話をしたようじゃが、 明日のことは判らぬ、しかし 今を全力で生きることが 明日に繋がるとおもっている・・・・・二人は どうかな・・・・・ 」

三人がそれぞれ 己が感慨に耽りながら 駒を進めて行った。 一時の後 雪を蹴散らせて近づく、凍てつく路面など意に介せずに駆けてくる騎馬が蹄の音が聞こえてきた。 そして 時間を置かずして、「統師さまー 統師さまー、耶律軍事統師さまー 」と叫ぶ声が前方の白き幕の奥から聞こえたかと思うと その幕を突き破り、三頭の馬が彼らの前方に現れてきた。 毛皮を着込み、その毛皮・顔に白き雪がまぶり付いているようだ。 馬の息が白い。 吹き舞う山道を駆け降ってくる。 その声は耶律磨魯古のものであろう。 磨魯古と曹舜と畢厳劉の三人が 飛ぶように駆け戻って来たのである。

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===== 続く =====

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