小説・耶律大石 第二章(06節)

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 開城祝いをした翌朝、大石の下に何亨理と耶律遥が思案顔で訪れてきて、 「統師殿、朝一番に見回ってきて思うのですが、 布と釘があれば 寒さを防ぐ手当てができます。 ついては 私に10名の兵と馬30頭を貸し与えてください。 西夏の鳥海に行けば、見知りの商人がおります。 往きは四日、帰りの六日と集荷に四日、二週間の旅程ですが、その間に曹舜が木材を整理し、表土は硬いでしょうが氷った土を掘り起し、西側に擁壁を築き上げるのは容易でしょうから畢厳劉にこの作業を お命じ下さい。 全体の指揮は遥殿にお願いしたいのです・・・・」

「よく気が付く、西側に擁壁を工夫して建造すれば、直ちに兵馬の畜舎が設けられると共に砦の防御の補強が一石二鳥と完備できるな。 して、鳥海に向かう馬と兵はそれで十分かな それと、遥よ   物見やぐらを考えて貰いたい。 木材は西側の柵の残材を工夫するとして・・・・・」

「物見やぐらまでは・・・・ はい、直ちに、・・・・・革紐が・・・・耶律磨魯古の知恵を借りましょう。 亨理殿、革紐の数量を出立前までにお知らせします」

緊急に必要とする資材の打ち合わせは済んでいたのであろう。 翌日の早朝には何亨理が10名の兵と共に、早駆で南西に向かって行った。 馬の吐く息が白い。 馬上の将兵は毛皮の防寒衣で個々の判別などできない状態で離れた行った。 耶律遥は耶律磨魯古が指揮する20名の若者に混じり、大声で激を飛ばしながら木材の片付け始めている。 体を動かさなければ寒さに耐え切れないようだ。 全員が生き生きと汗を流し始めた。 曹舜と畢厳劉は城内の縄張りを行っいる。 砦内の木材を仕分けてせいりが終われば、縄張りに従って凍てつく表土を掘り起し 擁壁を築く作業に取り掛かるのであろう。 活気づいた城内を一巡した大石は楚詞とチムギを伴い、遠駆けに出た。 周辺の地形を調べる目的であろう。

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 日増しに城内は整備され、 西側の壁も積まれていく。 掘り下げられた場所は馬の繋ぎ場に成っていく。 穏やかな日が続き 作業は捗り、砦の活気は一段と増して行く。 時折、 大石は長と話し合っている。 長の名はボインバット。 娘と男が二人いた。 先日の羊の頭を捧げ持ってきた子供であろう。 長には嫁いだ娘がいた。 馬駆け15日の北にいるとの話である。 他に、夫婦もの四組が住んでいる。 若者は二人だけだった。 若者はすぐに兵士に溶け込み、作業に精を出すようになっている。 老夫婦のこどもであろう。 三組の夫婦の子度は皆幼く、乳飲み子が一人いた。 長の夫人が大石たちの食事を作ってくれるようになっていた。

大石は遠駆けを日課のように出かけている。 その前後にはチムギと楚詞が赴くままに馬を操る姿があった。 燕京で育ったチムギは馬と一体となって疾走する喜悦が解り出したのであろう、戯れるように楚詞と競い、一人で駆け、あるいは 楚詞と共歩している。 大石はそれを楽しそうに眺めていた。 二人は夕刻に帰ることが多く成っていた。

見張り台を降りた大石は未だに佇む長老に何事か告げると広場を横切り北側の建屋に歩み寄って行った。 その建物の中央部、下屋の廊下に耶律遥を見つけた多郁が彼に近づきざま 彼の袖を引きながら 足早に広場の中央に向かった。 大石統師から言われた城内の当面の使い方について耶律遥の知恵を借りながら決めようとしているのであろう。 耶律大石は一任した任務については全く口を挟まない指導者であった。 老兵の多郁は部屋割りとは言え任された以上は最善を尽くそうと年は若いが人望がある知恵者の遥の助言を取り入れたものにしたかった。

北側の建屋の中央には大きな部屋があった。 その部屋には両脇の部屋に通じる扉があり、堅固な黒檀であろう扉は軋むことなく開閉できる。 この部屋のみが四辺の壁を石で積み重ねた構造で野性味がある。 西隣りの部屋との石壁には暖炉が設けられていた。 多郁が気を使ったのであろうか、大石がこの部屋に入り前から燃える黒い石が淡い炎を立てている。 また、両脇の部屋の寝台や机・椅子等の備品も黒檀であろうか必要な物は揃っていた。 天井すら造られている。

これら連結して北側建屋の中央部を構成する三部屋は、蒙古高原の獣皮、羊毛やフェルトや乳製品と漢南の茶葉と穀物の交易基地として開設した北庭府の管理事務所の中核だったのであろう。 見渡す限りの平原の真っただ中に、遼王朝を建国しその権勢を拡大させていった耶律大石の五世代前の遠祖たちが、近隣の遊牧民を従わせると同時に北方のキルギスやウリヤンカイの侵攻を防ぐに適したこの場所を前哨基地とし、時の推移と共に この北庭府を増強 北庭都護府に昇格させては兵を駐屯させて可敦城なる交易と防塁を経営して来たのだ。

北側と南側の開口部なき堅強な外壁がそれを物語っている。 しかし、遼の王家は南下してきた女真族から、長城以北の遼の封土を侵略から守り切れずに長城の南に閉塞する状態に追い込まれた。 いや、今は 女真族を率いる阿骨打は遼の王家を壊滅状態に貶め、遼王朝の公臣たちを金政権の下僕にしているのだ。 放置されて一部は朽ち、破損しているとは言え、いまなお 堅強で機能的な可敦城である。

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  天井と言えば、板張りに装飾を施した天井がこの北側の建屋の中央部には造られていた。 中央の大広間が奥行6メートル幅12メートル、両脇の控室が6メートル四方 そして6メートル四方の部屋が並ぶ24メートルが天井のある部分であった。 天井を有する部屋には生活するに必要な備品が残されていた。 また、北側の各部屋には板が敷かてれている。 一部が土間の部屋もあるが、部屋出入口の脇に焚口が設けられている。 床暖房であろう。 過日には、家畜の糞を燃やして暖を取ったのであろう設備である。 大石一行は燃える黒い石を野営用に持ち運び、ここに搬入しているのは幸いと成った。

楚詞と大石は中央の大部屋の隣りの暖炉が燃やされている部屋に入り 対座するように机を挟んで座した。

「今一度、周囲の地勢を聞こうか、半日行程の範囲であろうが・・・・」

「はい、兄上 先ほどの物見台からの覗える範囲でございますが、平原とは言え 大きな溝が地表を穿っております。 兵馬を進めるには、よほど地形を熟知していなければ大軍の展開は叶いますまい。 また、溝を伝えば 姿を見せずに将兵の移動や逃散は可能に成るでしょう・・・・・・」と淀みなく周囲の地形を報告していく。 この砦は智将が差配すれば、十数倍の敵に襲われても盤石であろうと確信する自信が口の端端にあった。 大石はにこにこと その報告に満足そうにうなずいている。

楚詞の報告が終わると、何亨理が 明日 城内の修築を行いたいが ご指示くださいと 願い出てきた。 大石は笑みを絶やさず、任せると一言した。 大石の自信にみなぎる若者たちに満足しているようすが 更に彼らを 周囲を活気づかせている。 部屋割りを済ませた多郁の指示で入るべき部屋の出入り口脇の焚口には燃える石が燻ぶり、その匂いが漂っている。 曹舜と畢厳劉が大石の前に現れ 愚直に一礼するや 開城祝いの準備に取りかかりますと言い終えると、隣室のチムギの下に走り去っ行った。

寒空の中央に半月が黄白色に輝き、その周囲を負けじと競うように星が輝く。 見渡せが満天の星である。 何時しか、燃える黒い石の臭いは消え、部屋は暖かい。

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  持ち込んだ 乾燥肉を中心に宴の料理が 北側の大部屋に並べられた。 大石は満足そうに中央に座り、楚詞とチムギがその左右に座っている。 毛皮の敷物の上である。 三人を中心に34名の若き将兵が床に並べられた大皿の料理を囲んでいる。 曹舜、畢厳劉、何亨理は楽器を持ち込んで 西域の韻律を奏でている。 毛皮は十二分に運び込んだようで、寝具にも敷物にも戦いの盾にも 防寒の幕としても活用するために運び込んでいるようだ。入城を祝う宴に集まった顔には喜びが満ち溢れていた。

宴が始まろうとしたとき、戸が開かれ 長が現れた。 長の後ろには木製の大皿を自分の頭より上に支える12・3歳の子供 二人が長の後ろから付き添っている。 その背後にも二人の若者が網で編んだ籠を持っていた。

長は 歩み寄り、一礼すると 「耶律大石様、 冬の事とて、青い采は叶いませんが 羊を二頭 料理して参りました。 お口に合いますかどうか判りませんが、若き勇士の方々にと思いまして・・・・」 と朴訥な挨拶をした。

二人の子供が頭上の皿を落とさぬように 緊張して近づいてくと、兵士達が座を離れ 道を開けた。 大皿は大石と楚詞の前に並べられ、籠の料理は将兵の円座の中心に置かれた。 大石と楚詞の前に置かれた大皿には 各々 料理された羊の頭が盛られ、血を煮沸して作ったゼリー状の固形物が添えられていた。 漢族の風習に感化している大石であるが、遊牧民が接客する最高の礼儀は屠殺し、祝宴に供する羊の頭部を主客に奉じるが最高の礼儀作法である事は熟知していた。 血の加工品が新鮮さを示し、供される食材が神の手で清められていることをも知っていた。 二人の若者が運んだ籠には 山盛りの羊の肉が盛られていた。 チムギは二頭の羊を提供してくれた長の度量の大きい篤いに ふと 燕京の老父を思い出していた。
 

===== 続く =====

                         *当該地図・地形図を参照下さい

 

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