小説・耶律大石 第二章(07節)

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 何亨理が10名の兵と共に、鳥海(五原と銀川*興慶*の中間)に向かって二週間。 可敦城の西側の城壁は凍りついた土壁が南北100メートルの長さで南の建屋と北側建屋西端側の城門と繋がっていた。 櫛状に広場側に3メートル間隔で5メートルの副壁が作られ、外柵に使われていた木材が梁や母屋材に流用されて、片流れ屋根の骨組みになっている。 兵馬を西から吹き付ける寒風に晒さず保育する繋舎として屋根材を張れば万全であろう。 何亨理たちが帰還するであろうと思われる日から 大石は昼前には遠駆けからもどっている。 予定のその日 毛皮の外衣を羽織った蒙古族と思われる二人が城内に入ってきた。 馬上の二人は壮健な若者に視える。 外衣は狼の毛皮であろうか、一人は馬が小さく見えるような巨体であった。

中央広場の奥、北側建屋の中央部の大部屋廊下に移動できる竃を据えて燃える黒い石を燃やして囲むように椅子を置き、暖を取りながら談笑していた大石、チムギ、楚詞に気が付いた巨体の若者が、城門を潜った辺りで 馬の側腹を両足の踵で軽く突き広場を真直ぐ横切り 三人の前に馬を走らせ 躊躇することなく三人の真近で下馬した。 大石と楚詞は騎馬する人物が城門を潜った折から、無言で彼の行動を疑視していたのだが、大石は泰然と楚詞は右足を椅子の脚内に引き 瞬時に飛翔できる構えで空気をよんでいる。

下馬した巨漢は馬の手綱を両手で背後に回し低頭した。 きびきびとした若者らしいどうさで、大石に頭を下げ そして 大石に顔を向け 話を切り出した。 大石も彼の方に向きを変え、顔を見詰めている。

「私はケレイトのグユン、弟が彼女に会うと言うので 久々にやって来た。 ここの様子を見れば 長くおられる準備をされている様子、交易所を再開されるのですか 」

「いや、交易所ではないが 春までここに留まるつもりだが・・・・」

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 「弟の用事が済めば、すぐに 引き揚げます 失礼しました 」 彼は 一礼すると 楚詞に対しても 「失礼しました」と 頭をさげた。 そして、体の向きを変え チムギに向うと驚きの表現をあらわにしている。 大石は表情を変えることなく やや動作がぎこちなくなったようだなと観察している。 確かに 突然現れたケレイトの若者の行動には戸惑いがあったが、一呼吸置いて 「失礼します 」と言い、大石に一礼するや振り向きざま乗馬していた。 機敏な動作であった。 彼はゆっくりと馬を御しながら、中央広場を横切り ウリヤンカイ部族の長・ボインバットの部屋前で馬を降りた。 三名の視線など意に介さぬと言う仕草で、弟と先ほど説明した同行者の馬に並べて馬を繋ぐと長の部屋に入って行った。

「巨体だが 俊敏さがある。 楚詞が柔なら彼は剛かな、清々しい青年だね、 それに あの馬 黒栗毛の駿馬 後足の白いのが難点だが、我が華麟より走るであろうな 背もあるし あのような馬を御すとは、ただの若者ではなかろう 」と大石がケレイトのグユンを寸評し、

「おぉ そうだ チムギ殿 毎日騎馬の練習のようだが、蒙古族の女子は歩けるようになれば、馬と遊ぶ。 自分の手足のように馬を御すそうだ。 長の娘に習うのも一考かな、 いや・・・・ 話はのぉー、 脅かせてやろうと思っていたが、あの駿馬を見たら 隠さない方が良いと思ってのぉー 」

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   「大石さま、そのお話とは・・・・・ 」

「明日あたり、亨理が帰還すれば、隠せるものではないが、馬をのぉー 馬を亨理が二頭曳いて帰るはずじゃ 」

「さて、チムギ殿に馬の話とは・・・・・」   「楚詞も いつまでも ずんぐりな蒙古馬では満足できまい 」

「義兄上、 話の筋がよめませんが・・・・」

「己の事には 感が働かぬらしいな 楚詞。 まあ良い、 チムギ殿に“月毛”が似合うと思うて、亨理が曳いてくるはず、 他は“連銭葦毛”を言っておるが 鳥海にて巡り合えばいいがのぉー 」

 

「まぁ、私に馬を・・・・」        「義兄上、 私にも馬を・・・・

ところで、 チムギ殿 義兄上が今言われた “月毛”とは 肌赤くなく、茶でもない、白に茶色を大目に加え、少し赤を入れた・・・うまく 説明できんが 眼は濃い茶色のはず、汗をかくとやや、赤くなって草原の緑に映える  貴だかい馬と聞いている 」

「そのような馬を・・・・私くし・・・・ して、楚詞さまの“連銭・・・” とは 」       「毛色は黒に近い灰色、全身に銭型の駁毛は散らばっている。 この駁毛が白い 共に見事な駿馬 天を駆けるような馬 」

「義兄上の白馬“華麟”は 誠に見事な駿馬、  チムギ殿 白馬は100に一つの馬、この馬に騎乗できるは将の誉れです。 遼歴代の皇帝の愛馬にしても これ程の名馬の話は聞きおよびません 」       「楚詞、 存外に 馬の事は詳しい のぉー 」

「それほどとは、思いませんが 父が与えてくれた馬と戯れておりました。 また、父の将・耶律曽利殿が日ごとに語ってくれた耳学問です 」

「そのような お馬を 私くしに 大石様 誠にありがとうございます 」        「礼は 手にしてから申すもの、 ここでは馬が無ければ何もできぬで のー」

長、バインタラの部屋からグユン兄弟が出てきた。 その後ろに、長の娘であろう女人が戸の傍に佇んでいる。 馬の手綱を引いて兄弟は城門に向かって歩んでいき 門の手前で兄・グユンは巨体を大石に向け 深々と頭を下げた。 楚詞が右手で答礼を送り、チムギも釣られて小さく頷いている。 グユンの弟は娘に話しかけてから 再び 歩み、門の外で鞍にまたがった。 そして 一気に駆け去り、瞬く間に 大石の視界から消えて行った。

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  予定の帰還日より、三つ日遅れて何亨理が戻って来た。 何亨理が乗る馬が先頭であろう。 二頭の裸馬が続く。 その手綱は先頭を行く馬の鞍に結わえられている。 騎馬武者10騎がそれぞれに二頭の馬を曳いている。 その控え馬20頭には荷が積まれているが、三十余頭の歩みは軽やかのようである。 空荷の裸馬、駿馬であろう。 小さな絨毯が、鬣から見事に張る臀部を被っていた。 絨毯で隠されたその臀部の筋肉が歩みに合わせて伸縮するさまが窺い知れる。 太陽が、歩み行く三十余頭の影をまだらな雪面に落としながら帰還してきた。

耶律遥と曹舜、畢厳劉は馬を走らせ、迎えに 駆けだしている。 知らせを受けた楚詞とチムギは城門の傍で帰りを待った。 彼等の影が長く成り、夕日が西の地平を荘厳な色に変え 赤く燃え上がっている。 寒さを厭わず、二人は立っていた。 燃える太陽が地平に消える前に耶律遥、曹舜、畢厳劉に促されたのであろうか 遥と亨理が二頭の空馬のみを曳いて城門を潜って、中央広場を横切って行った。 楚詞とチムギが二人を追って行く。

「統師殿、 ただ今 帰りました。 帰還が予定より長くなりました事 お許しください。 兵達、10名に馬30頭 無事に鳥海での任務を終え、帰ってまいりました。 尚、必要資材は 欠けることなく運び込んでいます 」

「儀礼ばった 報告はいい、 汝の顔を見れば総べて判る。 苦労を掛けた。 それに はや、日も落ちた。 荷は厳劉が指図するであろう。 はやく、休め 休ませてやれ。 ・・・・・・いや、その前に その二頭の馬の顔を撫でさせてはくれぬかのぉー  それに、 その緞通の被りを取ってくれぬか」

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===== 続く =====

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