小説・耶律大石 第二章(13節)

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 蒙古高原は未だに朝晩の寒さは強く、昼間との温度差が大きい。 日没に伴い暖がいる。 しかし、足元の茶褐色の草の根元をよく見れば春の息吹が覗える。 草原の遊牧民は、この時期足元を馬の蹄で掘り起こす事を 大地を傷つける事を極度に嫌う。 自ずと通行路とする道ができる。 その道を辿って北方より、鳥海の商人・忠弁亮がバイカル湖の南で山丘が南面で冬の野営を営むキルギス村落を回り、可敦城に戻って来た。

120余頭のラクダを連ねるその隊商の先頭には、左右に畢厳劉と多郁が忠弁亮を挟むように前後していた。 駱駝を扱う隊商員が十数名、それぞれに十余頭のラクダを一直線にして後続している。 駱駝の踏み跡が草原を痛めないようにする知恵でもあろうか。 畢厳劉が与党の二十名の騎馬武者達はその長蛇の脇に寄り添って可敦城に帰還してきたのである。ラクダの背には羊の毛皮、貂、狼、野兎の獣皮が摘まれていた。 獣の皮は夏場に猟をして集めていたものであろう。 羊の外皮は越冬用の食料として屠殺した商品であろう。 遊牧民の現金収入であり、物々交換の代貨品である。

北庭都護府・可敦城は約一ヶ月で整備が進み、堅牢な砦に変貌していた。 耶律大石総師はじめ、兵糧管理を管理する耶律磨魯古、東方のタタル族の動向を探っていた耶律楚詞、燕京・興慶の伝令に向かっていた石隻也が北から帰って来た畢厳劉をでむかえている。 耶律磨魯古が己の采配で、帰着した一行の隊商随員の夕餉と明朝の食事を砦内にて越冬しているウリヤンカイ部族の長であるボインバット一家に命じていた。

旅の報告に来た忠弁亮に大石は北方の様子や、旅の苦労など 夕餉の折の談笑に時を過ごした大石は、「明朝の出立と聞き及んだが、耶律磨魯古を同行させてもらいたい。 鳥海から、陰山に設けている砦に運び入れる兵糧を調達の上 運んでもらいたい」といった。

「冬季の商いは少なく、誠に有りがたいお話、されど 陰山南麓は荒れ地の砂漠と原野の連続、私くしは あの方面には商いの覚えなく 道不案内ですが・・・・」

「なれば、石隻也も同行させよう。 隻也、鳥海に向かえ 鳥海からの道案内と かの地で忠弁亮殿を時か巖に紹介し、今後の戦術に必要な資材を忠弁亮殿と相談できるようにするが 務めだ。 陰山先遣隊基地を充実させる。 時か居ればよいが、不在なら 巖に基地からこの可敦城に通じるえの秘密の間道を開けと 伝え、・・・・そうだ、その任は苞力強に一任して 時は金の動向に、巖は五原の天祚帝が同行に目を離すなと伝えれば良い。 素の間道が要所に水と兵糧、そうだな 25名の騎兵と兵馬 一月分を蓄積して置くことを伝えるのもの忘れるな。 忠弁亮殿に基地とこれからの戦略上の兵糧をそちらで賄えるようによく相談しろと重ねて伝える事。 隻也、過日の経験を活かしてこい。  う・・・・その顔つき、 何か不満か・・・・・」

「いえ、やっと 楚詞皇子から本場拳法の手ほどきを受け初め・・・・・」 「先は長い、弓矢を修得したように 旅先で工夫いたせばよいではないか」

「隻也、足腰が他者以上に鍛えて来たのか、短時間で教えた型が安定しており 美しい。 旅先で 日々 学んだ型の復習に工夫を加えるも修行の一つ。 自ら励めば・・・・・」

「石隻也と言われるか。 初めてお会いしたと思いますが。 石姓ならばパミールから西方が故地の人。 それに、五台山の拳法は、私も収得してますが・・・・・」

「忠弁さま 私は、両親を幼い頃に宋との戦でなくし、遠縁にあたる安禄衝さまに養われて、ご子息の安禄明さまに商いを教えられたものです」

「なんと、あの 我らがウイグルの長、安禄衝殿の身内なのですか。 一度 燕京にてお会いする機会があり、以降 西夏と遼との商いで なにかと関係があります。 また、私も若かったのでしょうか 見知らぬ新天地へ隊商を率いて行く危険を防ぐべく体技を修得せねばと、安禄衝殿に紹介状を書いていただき、五台山で修行したのです」

「さて、 安禄衝殿が推薦された五台山の修行場なら、慧樹大師様をご存知でしょうか・・・・」 「えっー!!、慧樹大師様・・・・ 我が師ですよ。 耶律楚詞皇子・・・・・」

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「おや、されば、安禄衝殿と我が弟楚詞とは同門の兄弟か、 これは良い。 隻也、陰山での任が終われば鳥海に引き返し、チムギ共々 禄衝殿宅に世話になって 禄衝殿から学ぶ思案をいたせば一挙両得。 暫く伝令に走ることもなさそうだ。 あれば、多郁を走らせる 」

「統師、一挙両得・・・・・と、申されますと」と、畢厳劉が不信義に聞いかけている。 同時に、安禄衝が「私どもには、大石様のお身内と昵懇に成れることは喜びですし、商いの網が増々 広まって行く思いがいたします。 嬉しいことです・・・・」と

「厳劉よ、 楚詞と相談していたのだが、そちの帰城を期して、楚詞と五・六名の兵士で北方の部族を調服の旅に出ようと考えている。 多数の将兵を伴えば、脅しに成ろう。 ボインバットも同行願って、ウリヤンカイ部族からだが あの若者 ケレイトのグユンと言ったかな、彼も同行願いたいのだが、 キルギス族、ケレイト、モンゴル、タイチウト氏族、ウリヤンギト氏族、メルキトとオイラトの族長には是が非でも合いたいと考えている 」

「それ故、準備ができ次第 この砦は、そなたと磨魯古、曹舜に任せたいのだが・・・・」 「されば、磨魯古が青海から必要な兵糧や各氏族への手土産を調達して、帰城した以降の出立に成りますかな・・・・・」

「そのように考えて居った。 忠弁亮殿 お聞きのように、明日 耶律磨魯古と石隻也が同行して鳥海に降りますが、まず 陰山南麓に運び入れる兵糧のお世話と北方に向かう手見上げの調達を お世話願わねばならないが・・・・・・」

「改まった、お話は無しにして、何時でも ご下命ください。 初めてお会いできました日より、大石様の夢に我が命も託しております。 いや、安禄衝様やセデキ・ウルフ様の口端に登り 聞き知った時からかも知れませんが 」

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 忠弁亮が60頭の駱駝に当面の兵糧を積んで東に進んでいた。 石隻也が先頭を騎馬で行くのだが、彼とて初めての道だ。 いや、道など無い。 左手に急な傾斜を広がる陰山山脈の裾、巴彦淖弥村落から五原の北側に広がる小石が多いゴビ砂漠の北辺、陰山の山腹がその原野に食い込み枯れた沢が幾筋も砂漠にその姿を消して行く辺りを東に進んでいる。 ラクダの積荷は兵馬の干し草と羊の乾燥肉に小麦粉である。 隻也にしてみれば、このような道なき道の踏破は両脚に頼る方が楽なのだが、並んで進む忠弁亮が駱駝の背に身を委ねて話しかけて来るのでいたし方が無いようだ。 五日の道程であろう。 寒暖が激しい砂漠の旅である。 が、日中は暖かく眠気をさそう。 しきりに話しかけてくる忠弁亮に眠気は起こさないが単調で、変化の乏しい風景が続いていた。

・・・・・・・・・

その頃、 雁門関から燕雲十六州を北に抜け 三関口長城 鄂爾多斯を横断して沙谷津に渡り、黄河を南に沿って西夏の都興慶の城門を潜った宋江と耶律康阮が弟に教えられた何蕎の家を探していた。 宋江は興慶の城内に滞在した事はあるが西夏の重鎮セデキ・ウルフ邸に滞在していたのである。 康阮は初めての城下であり、遼の言葉が通じない。 また、訛の強い南漢の呉語も西夏の民には通じなかった。 二人は漢語で意中を伝え合うのだが、その漢語を解する人に出会えないでいた。

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小男と巨体、一人は武人のようで小男は貧相な旅人の様子で馬を曳く二人が話しかけると子供などさえ逃げて仕舞うありさまであった。 思案顔で記憶するウルフ邸に足を向けるべく大きな辻を曲がろうとしたとき、小商人の風袋の男が近づき、声を掛けた。

「耶律康阮さまですね、主人の何蕎はセデキさま宅に伺っておりますが、二三日前から客人が来る。 今 滞在中の耶律康這殿の兄上 巨躯で見事な髭 友とお二人の旅姿であろうから、城門の守衛兵から来門の知らせが来るようにいたしておけと、命じられておりました。 先ほど その知らせが来て 探しに出向いたところです」と、流暢な 漢語である。

「それは、なにより。 して、弟の康這が居る場所に案内してもらえるのかな」

「もちろんのこと、主人の何宅にて耶律康這殿はここ二三日、無聊なご様子、何宅はこの先 すぐ近くです。 小半時も要しません。 案内の後に、私は主人に知らせに走ります。 セデキさま宅はここより半時の王宮ちかくですが・・・・」と要件を簡単にした後に 男は誘うように向きを変え、手振りで従うようにと また 方向を示すように歩き始め、三人は肩を並べた。

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===== 続く =====

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