九日間の女王ジェーン・グレイ =6=

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仕組まれた玉座への道

7月9日、精神的苦痛が重なり体調を崩して療養していたジェーンが、ジョン・ダドリーから呼び出されて義父の邸宅へ向かうと、屋敷は不気味なほどの静けさに包まれていた。 大広間にはすでにダドリー一家とジェーンの両親、それに数人の主だった貴族らがそろっており、ジェーンは訝りながら室内へ一歩踏み入れた。すると、彼らは一斉にジェーンに深くお辞儀し、床にひざまづいたのだ! 狼狽する彼女に、ダドリーの声が突き刺さった。

「国王陛下が崩御なさいました。 陛下はご崩御前に、あなた様を次期女王に定める旨をご遺言として遺されました」

あまりに突飛な内容に茫然としたジェーンは、何のことかすぐには理解できなかった。 だが、やがてその重大さを認識すると顔面は蒼白になり、声を震わせながら反論した。

「そんなはずはありません。次期女王はメアリー様です」。 しかし、ダドリーは淡々と続ける。

「陛下はメアリー様によってプロテスタントへの迫害が起き、国が混乱するのでは、と懸念しておられました。それにメアリー様とエリザベス様のお母上とヘンリー8世陛下の婚姻は無効となっており、2人は私生児として廃嫡されたお身の上。あなた様のお母上フランセス様は、すでに継承権を放棄されております」。

グレイ夫妻は、「女王になったのよ、認めなさい」と励ました。 大蔵大臣ウィリアム・ポーレットが王冠を差し出すと、ジェーンは狼狽して震えながら泣き出した。 「私は・・・私は女王なんかじゃありません。王冠は受け取れません。」

よろよろと後ずさりするジェーンのもとに駆け寄った夫のギルフォードは、彼女の手を取りながら「どうか決断してください、ジェーン」と懇願。 そしてジェーンの父や他の諸侯らも取り囲み、口々にまくしたてる。

「ジェーン、亡き陛下のご遺志だぞ」  「後戻りはできません。 すでにメアリー様はご存知です。 もし王位を継がなければ、メアリー様は即位後、我々を反逆罪で処刑するでしょう」――。

「あぁ神よ…」とつぶやき、ジェーンはその場に崩れ落ちた。 狡猾な大人たちの説得という名の脅迫を前に、両親への絶対服従、新教への献身を教えられてきた少女がどうやって立ち向かうことができただろうか。やがて「女王陛下、万歳!」という歓呼の声が大広間に響き渡った。

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・・・・・・・・・・・・・

ギルフォード・ダドリー_; 初代ノーサンバランド公爵ジョン・ダドリーと、英領カレーの総督を務めたサー・エドワード・ギルフォードの娘ジェーンの間の六男、実質的な四男として生まれた。 ダドリー家は14世紀にダドリー城主となり、後にダドリー男爵となったサットン家に由来する父方の祖父エドモンド・ダドリー はヘンリー7世王の顧問官を務め、ヘンリー7世没後に失脚・処刑された。 父方の祖母を通じ、ギルフォードは百年戦争の英雄であるリチャード・ビーチャムジョン・タルボットの血を引いていた。

ダドリー家の13人の子供たちは、後にギルフォードの妻となるレディ・ジェーン・グレイやエリザベス王女(後のエリザベス1世女王)と同じ人文主義の教育を受けた。 父ノーサンバーランド公爵は幼いエドワード6世王の枢密院議長となり、1550年から1553年まで実質的にイングランドを統治した 印刷業者のリチャード・グラフトンは、知り合いだったギルフォードについて「美男子で、芸術を愛し、感じのよいジェントルマン」と評している。

すでに死期の迫っていた国王エドワード6世は、2人の腹違いの姉メアリーとエリザベスを排除して、又従姉であるジェーン・グレイを王位継承者に指名した。 エドワード6世が1553年7月6日に死去すると、ノーサンバーランド公爵は亡き王の遺言通りになるよう事を運んだ。 神聖ローマ帝国とフランスの大使はノーサンバーランド公爵による計画の成功を確信していた。 ジェーンは王位に就くことを嫌がったが、実の両親と義理の両親を始めとする一群の貴族たちの懇願と叱咤に根負けして女王となることに同意した。

ギルフォードもまた新妻に繰り返しキスや抱擁をしながら、愛情深い態度で王位に就くよう嘆願した。 7月10日、ジェーンとギルフォードは天蓋の下に2人並んで、歓呼を受けつつロンドン塔に入城した。 ロンドン塔の主となったギルフォードは、自らも王位に就くことを望み出した。 ジェーンの後の告白によれば、「私と議会の同意が無ければ王位に就くことのできない」ギルフォードと彼女とが、このことで長時間の夫婦喧嘩をしたといいう。

結局、ジェーンはギルフォードをクラレンス公爵に叙すことしか認めなかった。 ギルフォードは母親のノーサンバーランド公爵夫人に「私がなりたいのは公爵ではない、国王です (“I will not be a duke, I will be King”)」ともらした。 ノーサンバーランド公爵夫人は嫁の仕打ちに腹を立て、ギルフォードにジェーンと同衾することを禁じた。 また公爵夫人はギルフォードにロンドン塔からダラム・ハウスに帰るように命じたが、、ジェーンはギルフォードにロンドン塔に残り、自分の傍にいるように求めた。 このとき、ジェーンは「私は公爵と枢密院に欺かれたうえ、夫と姑にまで邪慳にされている」と嘆いた。

ギルフォードは枢密院の日々の会合において議長役を務めたが、これに対し国家元首たるジェーンは出席しなかった。 女王夫妻は天蓋の下で一緒に食事を摂った。 ギルフォードは「陛下」の敬称で呼ばれるようになったがそれはあくまで女王の夫君としての地位のおかげだった。 フランス大使アントワーヌ・ド・ノアイユ伯爵は、ギルフォードを「新王」と呼んでいる。 スペイン領ネーデルラントブリュッセル宮廷もギルフォードが国王として即位したと見なしていた。=

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 精一杯の抵抗

即位に無理やり同意させられたジェーンは、翌日=王の死後4日目=、金糸の刺繍がふんだんに施された豪奢な衣装(チューダー家の印である緑と白のドレス)を身にまとい、 群衆に姿を見せるために、小柄なジェーンはチョビン(靴の下につける上げ底)をつけて水門から塔内に入り、歓迎の大砲や管楽器が鳴り響く中、ロンドン塔内の王宮「ホワイトタワー」に入った。 ロンドン塔の周囲には、早朝に発表された前国王の死と新女王の即位を知った多くの国民が集まっていた、 がしかし 群衆は、困惑するばかりで、歓声をあげる者いなかったという。

彼女が姿を現しても新たな君主誕生に対する歓声はまったく聞こえない。 メアリーが王位に就くと思っていた彼らは、名も知らぬ少女の突然の即位に、戸惑いと不満を感じていたのである。 一方王位継承権を剥奪されたメアリー王女は、身の危険を感じてノーフォーク州へと逃れていた。 また、エリザベス王女は情勢を静観する構えで、沈黙していた。

一方、ジョン・ダドリーの計画はまだ終わってはいなかった。 彼は戴冠式の準備を進めながら、何気ない調子でジェーンにこう切り出した。 「女王の夫が一介の貴族であるのは不釣り合いでは? もうひとつ王冠を用意したほうがよさそうですね」。

これが狙いだったのか…! ジェーンは陰謀の全容を突如理解した。 ギルフォードを玉座の隣に据えた後、ジェーンを傀儡の女王とし、ダドリー一族が権力を一手に掌握するつもりなのだ、と。 ジェーンの心は一瞬にして怒りで煮えたぎった。 そしてダドリーを挑むような表情で見返し、毅然と告げた。

「私が女王の位にとどまる限り、ギルフォード様を王にすることは絶対にありません。 議会の承認なしに、そのような権限は持っておりません」 今の彼女にできる精一杯の抵抗であり、王家の血を引く者としてのプライドだったのかもしれない。

息子が王になれないと知って、姑ノーサンバーランド公妃は怒り出した。 同じ頃、議会は反ノーサンバーランドで意見が一致した。 かれらはジェーンの王位を否定し、メアリー王女こそ正当な女王だと発表した。   その知らせに、ジェーンの母フランシスとノーサンバーランド公妃は口惜しさにすすり泣いた。 それから数日間、すなわち7月11~13日の間、ジェーンはストレスのために寝込んでいたらしく、巷には姑に毒殺された?という噂が流れた。

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===== 続く =====

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