不沈客船タイタニックの悲劇=15=

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 ☛ ☞  映画『タイタニック』の監督が深海底に横たわる難破船に無人探査機を使って潜入。 そこで見た驚きの光景とは・・・・・・・・・。

潜水艇「ミール」の格納庫から無人探査機「ギリガン」が出動し、難破船の内部へと姿を消して、すでに5時間ほどが経過した。 私たちの乗る潜水艇は、史上最も有名な難破船タイタニック号の上甲板(最上層の甲板)に停泊している。 ここは水深4000メートル近い深海。 辺りは永遠の闇に閉ざされている。
私はモニター画面を見ながら操縦桿をそっと動かし、潜水艇と光ファイバーケーブルでつながれたギリガンを、危険に満ちた難破船の奥へと導く。 F甲板を通り、迷宮のような船内へ入った。 まるで自分自身がギリガンに乗って移動しているかのような感覚を抱く。 カメラは私の目のようだ。 自分がその場に立って、船内の通路をじっとのぞき込んでいるような気がした。

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 出入り口を見つけて入っていくと、明かりの中に突然、青と緑のタイルの壁が浮かび上がった。 床にはチーク材の寝椅子が逆さまに転がっている。 ほとんど無傷で、すぐにでも使えそうだ。 上には、金箔を張ったアラベスク模様の丸天井が見えた。 「トルコ式浴場に入ったと知らせてくれ」と、横にいた海洋考古学者のマイク・アーバスノットに指示する。 彼は海上で待つ船にマイクで伝言した。

私たちがタイタニックの考古学的な調査を始めたのは1995年。 ちょうど映画『タイタニック』の製作中で、この難破船の撮影を終えようとしていたころだった。 当時使っていた無人探査機「スヌープ・ドッグ」は、性能はそれほどよくなかったが、それでも船内の大階段を通ってD甲板まで潜り込むことができた。 そのときの探査で、装飾を施した羽目板の多くが無傷で残っていることがわかった。 スヌープ・ドッグは、潜水艇につながるケーブルが短かったため、それ以上奥に進むことはできない。 明かりの向こうの暗闇に何があるのか、私は知りたくてたまらなかった。

映画の公開後、タイタニックの船内をくまなく調べるために、高性能の無人探査機2台を発注した。 そして2001年と2005年、再び潜水艇で深海に潜り、船内の奥深くに何度となく探査機を送り込んだ。 最終的に、タイタニックに残っている船内スペースの65%を撮影できた。

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 探査は驚きに次ぐ驚きの連続だった。 一等船客用のダイニングサロンとレセプション室には、縦長の鉛入りガラスの窓が無傷で残っていた。 手彫りのマホガニー材の壁板と柱も無事で、元の白いペンキが残っている部分もあった。 クリスタルガラスのシャンデリアも見つけたほか、真鍮のベッドがほぼ完全な姿で残っている一等船室もあった。 エレベーターの出入り口には、精緻な透かし彫りが施された鉄の柵が横たわっていたし、真鍮の呼び出しボタンも残っていた。 手を伸ばしてそれを押せば、エレベーターが亡霊のように現れてきそうだった。

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 タイタニックは処女航海で沈没したので、船内の写真はほとんど残っていない。 そのため、映画のセットは、姉妹船のオリンピック号の写真を参考に制作した。 今回の探査で初めてタイタニックの構造が明らかになり、撮影した映像から細部を再現する作業を始めている。 今では、映画のセットのどこが本物そっくりで、どこが本物と違ったかわかっている。

数々の発見の中でも、最も心を動かされたのは、人とのかかわりを感じさせる遺品だった。 一等船室の壊れたクローゼットに残る山高帽。 探査機のライトを映し出す洗面台の鏡。 別の一等船室には、ガラスの水差しとコップが洗面台に置かれたままになっていた。 もしコップが空だったら、船が沈没したときに流されてしまっただろう。 誰かが半分水を残したままコップ立てに収めたので、今でも残っているのだ。

無線通信室には、通信機器が今もあった。 若い通信士のハロルド・ブライドとジョナサン・フィリップスが沈没事故の前夜に改造した変圧器も撮影できた。 二人は無線マニアで、決まりを無視して、変圧器が最高出力で使えるように手を加えていた。 この違反行為のおかげで、712人の命が救われたのかもしれない。 変圧器がフル稼働できなければ、SOS信号が届かず、客船「カルパチア号」が救助に来なかった可能性もあるのだ。こうした貴重な映像を撮影していると、まるで当時の出来事をその場で目の当たりにしているような気分になる。

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 2001年の探査で、私はストラウス夫妻のスイートルームに探査機「ジェイク」を入れようと試みた。 救命ボートに乗れるのは女性と子供だけと言われ、妻のアイダは夫のイシドアと船にとどまることを決意。 老夫婦はこの部屋でともに最期を迎えた。 映画の中でレオナルド・ディカプリオ演じるジャック・ドーソンがヒロインのローズの肖像を描いた部屋は、このスイートルームをモデルにしている。 タイタニックで最も豪華な客室だが、残念ながら、このとき探査機は隣の部屋までしか入れなかった。

2005年の探査では、何としてもスイートルームを撮影しようと、ひと回り小さい探査機「ギリガン」をわずかな隙間から室内に入れた。 装飾を施したマホガニーの暖炉ばかりか、その上に置かれた金の置き時計も無傷だった。 古い写真に記録された通り、そして映画で再現した通りの光景が広がっていた。 漆黒の海底で、架空の物語と現実とが一つに溶け合う。 何とも不思議な瞬間だった。

私は合計で33回潜水し、そのたびに平均14時間、タイタニックの残骸の上で過ごした。 船上にいた時間は、今やスミス船長よりも長い。 無人探査機を操っていると、まるで自分の化身(アバター)がタイタニックの船内を歩き回っているかのような錯覚を覚える。 そうした超現実的な体験をしたことが、これまでの探査の中で最も印象に残っている。

美しくも不気味な残骸は今や、この世とあの世のあわいにまどろむ。 そこは日常からはかけ離れた奈落の底だが、なぜか私は奇妙な既視感にとらわれた。 忠実に再現された映画のセットの中を何週間も歩き回っていたから、探査機のカメラが映し出す前に、壁の向こうに何があるかわかるのだ。 それは薄気味悪い体験だったが、同時に不思議な安らぎが私を包んだ。まるでわが家に帰ってきたように。

文=ジェームズ・キャメロン

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===== 続く =====

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