現代の探検家《小林快次》 =33=

◇◆ Great and Grand Japanese_Explorer   ◇◆

 世界中を飛び回り、恐竜の姿を求める / 小林快次 =22= 

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◇◆ 追稿 : 未知の恐竜を求めて、冒険のはじまり 【マガジン幻冬舎より】 =3/9= ◇◆

 なぜ私たちがデイノケイルスの化石が発見された場所を特定しようとしているのか。 以前の発掘調査隊が発見し、化石産地として認定された場所での掘り残しがないか確かめるためだ。 まるでハイエナのようではあるが、意外に掘り残されていることがある。 これが二つ目の重要な理由である。 発掘は、お金と時間がかかる。 恐竜化石は、大きいこともあり、時間切れまたはお金がなくなってしまい掘りきれずに残して行くことがままある。

私たちが追い求めているデイノケイルスは、肩の骨と腕、そして脊椎や肋骨などが発見されている。 当時の発掘記録を見ると、まだ残りがあるのか、それとも掘りきったのかが明らかではなかった。 当時発掘したポーランド人に聞いても、「多分掘りきったと思うけど……」と曖昧な答えしか帰ってこなかった。 私たちは、わずかに残された可能性に期待し、デイノケイルスの発掘地を探していた。

そしてある日、その瞬間がやってきた。

何度も通りかかった崖。 あまりにも何度も通り過ぎていたからか、みんなの頭からは除外されていた場所だった。 それは、私たちのキャンプ地に近く、まさに灯台下暗しであった。 初日にも候補にあがった場所の数メートル先で、確定したきっかけは、残された木の屑や釘であった。 ポーランドの研究者が撮影した白黒写真をかざすと、目の前の風景とぴったりと一致する。 そして、足下には木屑と釘が散乱していた。

「みつけたぞ!!」

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 みんなが興奮して、その場に集まる。 見つけた喜びと同時に、“こんな近くに……”というバツが悪い雰囲気が漂っていた。 ともあれ、私たちは念願のデイノケイルスの化石産地特定に成功し、これからの作業に大きな期待を膨らませていた。 これで、デイノケイルスの産地と層準が確定した。 次のミッションは、掘り残された骨があるかどうかを確認することだった。

「こんなに近くを見落としていたなんて信じられない。思い込みって、全ての見方を変えるものだね」とメンバーの一人が言う。

こんなところにあるはずがない、既に確認したから絶対にここではない、と思っていても、実は見落としていたということはいくらでもある。 非常に苛立たしいが、どんなに自分なりにしっかりと見たつもりでも、思い込みによって見落としが出てしまう。 それでも、我慢強く捜索を続けることによって、私たちはデイノケイルスの産地を見つけ出した。

白黒写真と、寸分違わずぴったりと合う風景。1965年に撮られた写真ということは、43年前の風景だ。しかし、目の前の風景は、この白黒写真そのものである。全くといっていいほど、変わっていない。丘や谷の形だけではなく、そこに転がっている石までも同じだ。

その変わらない風景に驚き、まるで40数年前にタイムスリップしたような感覚になる。 ポーランドとモンゴルの研究者が、デイノケイルスを見つけたその瞬間に立ち会い、彼らと発見の喜びを一緒に分かち合っているような気にもなる。 私たちの頬をかすめていくそよ風を、彼らも同じように感じていたのだろう。 ゴビ砂漠は、私たちの世界とはかけ離れた、ゆったりとした時間が流れ、40数年の月日を感じさせない。

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 謎に包まれた恐竜は、ここで発見された。 私たち古生物学者を惑わせる、想像を絶する大きな腕。 デイノケイルス発見地の再発見は、私が初めてデイノケイルスの本物の骨を見たときの驚きを思い起こさせた。

それは、12年前に遡る。 2001年、場所はフィンランドのヘルシンキ。 私は、オルニトミモサウルス類という恐竜を研究していた。 見た目がダチョウに似ていることもあり、ダチョウ型恐竜とも呼ばれている。 長い首、すらっとした脚、歯はなく、嘴を持っているのが特徴の恐竜だ。 このオルニトミモサウルス類は、ダチョウ型恐竜というだけあって、恐竜の中でも最速だったという。

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 私は、アジアと北米から発見されているオルニトミモサウルス類を研究するため、ヘルシンキを訪ねていた。2001年の2月。冷えきった空気は、トゲのように肺に突き刺さり、呼吸がうまくできない。 その一方、その息苦しさを忘れさせてくれる程、空気は澄み切っており、目の前に広がる風景は美しい。私が大学を過ごした、米国ワイオミング州を思いださせる。

そして、ようやく目的地である科学館に到着した。 ここでは、モンゴルで発見された恐竜化石が展示されている。 私は、展示見学ではなく、展示されている化石を研究するためにここにやってきた。モンゴルは世界でもトップ5に入る恐竜化石産地国であり、その多くがこのヘルシンキの科学館に運び込まれ展示されていたからだ。

そういった関係もあり、モンゴルで発見されたオルニトミモサウルス類がたくさん展示されていた。 ハルピミムス、ガルディミムスやガリミムス。私はこれを研究の標的としていた。

展示は、決して艶ではないが、コンパクトにまとまっており品がある。 押し付けがましい説明パネルもなく、恐竜化石の持つ「自然が生み出した造形物」としての美しさを引き出している。

私は展示室の入口を通り、目的としているオルニトミモサウルス類へと向かう。

すると、そこへたどり着く前にとてつもなく大きな腕を目の当たりにした。 デイノケイルスの本物の化石だった。

「でかい……」

デイノケイルスのことは知っているつもりだったが、本物を目の当たりにすると、その大きさに改めて驚かされ言葉を失った。 そして何よりも驚いたのが、その腕がオルニトミモサウルス類のそれにそっくりだったことだ。

2001年の時点で、私は世界中のオルニトミモサウルス類の化石を見てきていた。 目をつぶっても頭の中で、あらゆる骨の形状を思い浮かべることもできるくらい、オルニトミモサウルス類三昧の日々を過ごしていた。 だからこそ、デイノケイルスを見た時に、驚きが大きかった。

「オルニトミモサウルス類だ……」

独り言を何度もつぶやいた。とにかくそっくりなのである。 しかし、あまりにもでか過ぎる。私にとって、あり得ない大きさだった。 ・・・・・つづく

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=== 続く ===

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