現代の探検家《田邊優貴子》 =17=

◇◆ Great and Grand Japanese_Explorer   ◇◆

“National Geographic Magazine”より

 南極の凍った湖に潜って、原始地球の生態系を追う =田邊優貴子= 

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◇◆ 第6回 南極ダイビングはトラブルとともに =3/3= ◇◆

  次のトラブルが発生したのだ。私の視界を遮っているものは、無数の空気の泡。驚きで、状況を理解するのに10秒近くかかった。 泡をかき分けて下を向き、ダイブコンピューターを見ると、残圧ゲージが急スピードで減っている。 レギュレーターから空気がだだ漏れの状態、つまりフリーフローしているのだった。

レギュレーターのどこかが凍り付き、エアタンクから送り込まれる空気が全て水中に排出され続けている。 もはや潜水終了である。 なんとか気を平静に保ち、慌てずに光が差す穴を目指して浮上していった。 フリーフローは止まらない。 氷の下からゆっくりと氷のトンネルに入っていった。

水面に顔を出し、クレメンスの1・2・3の声に合わせてドルフィンキックをした。 すぐさまデイルに体を起こされ、マスクが外された。 やっと静けさがおとずれ、ゆっくりと深呼吸した。 身につけた全ての機材が素早く取り外され、スノーモービルでキャンプ地に戻った。

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恥ずかしいけど単純な原因でよかった

ダイブテントでまずは凍り付いたドライスーツを解かし、着替えてから体をヒーターで温めた。 それから、トラブルの原因を一つ一つ追及していった。

まず1つ目の大きなトラブルはウェイト不足。 けれど、当初の16kgで不足だったうえに、2回も追加しなければならなかったことが腑に落ちていなかった。 厚着で浮力が大きいとは言え、そこまでウェイトが必要とは思えない。 なぜならいつも昭和基地周辺で潜水する時は、7kgのウェイトだからだ。

2つ目のトラブルはBCジャケットの操作部の凍結、3つ目のトラブルはレギュレーターの凍結によるフリーフロー。 これらはウェイト追加のために水から外に出たことが原因ということはすぐに想像できた。 水に濡れたままマイナス16℃の外気に触れたせいで、いずれも凍り付いたり氷核が出来たり、というところだろう。 これは、ウェイト不足でなければ起こらなかったことだ。 つまりウェイト不足問題さえ解決できればよいのだ。

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  その後、デイルとともに潜水機材を片付けているとき、原因が発覚した。 2ポンドと書かれたウェイトが思ったより軽く感じられたからだ。 恥ずかしいことに、原因はポンドとkgの換算間違いだった。 ポンド表示のウェイトを用意する際に、「1ポンド=2kgでは」というデイルの言葉を、私が確かめもせずに鵜呑みにしてしまったのである。 実際は1ポンド=0.45kg。想定のおよそ4分の1のウェイトしか装着していなかったわけだ。 一連のトラブルで半ば自信を喪失しかけていた私だったが、あまりにも単純なことが原因だったおかげで、南極ダイビング恐怖症になることは避けられた。

同時に、これまで南極で潜ってきた状況とはかなり違うことも学べた。 0℃の水はいつ凍ってもおかしくない状態にある。マイナス20℃近い気温では、水中から陸に上がると濡れた部分が10秒もしないうちに凍り付く。 実際に、水中で浮力調整するBCジャケットが凍り、呼吸を調節するレギュレーターが凍り付いてしまった。 これまで南極で何度もダイビングをしているというのに、この日生まれて初めて“南極ダイビングの危うさ”を実感したのは言うまでもない。

「明日も天気が良ければ、ユキコはまた潜るよね。あと6~7回は潜るかな」

夕食中、デイルはさらりと言った。 今日潜ったから明日はないだろう、なんていう私の甘い考えは一瞬で崩された。 コンディションさえ許せば、潜水漬けの日々になるであろうことをこのとき悟った。 ここでは昭和基地周辺で潜水する時のように、潜水調査というものが一大イベントという雰囲気ではないのだ。

この日短いながらも、ここアンターセー湖でちょっと過酷な潜水をしたおかげで、それまでの緊張と不安は和らいでいた。 が、やはりまだ私はナーバスなままだった。そう、私には水中に潜ってやらなければならないことがたくさんある。それなのに、ただチェックダイブをしただけで(しかもトラブルだらけの)、私の潜水調査はまだ何も始まっていないし、水中の世界を何一つ堪能していないのだから。

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・・・・・ 南極点到達競争 =壮絶な英国隊・スコットの遭難= ・・・・・・・

=== 続く ===

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