現代の探検家《田邊優貴子》 =54=

◇◆ Great and Grand Japanese_Explorer   ◇◆

“National Geographic Magazine”より

 南極の凍った湖に潜って、原始地球の生態系を追う =田邊優貴子= 

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◇◆ 第24回 「ただいま! そして、さようなら」 ◇◆

すっかり春ですね。

2012年3月19日の夕刻、ついに日本に帰ってきました。 草の薫り、春の匂い、街行く人々、行き交う自動車、ペンギン・アザラシではない動物(ネコやイヌ)・・・・周りのものすべてに対して不思議な感覚を抱きます。 空の色も、空気の匂いも、聞こえる音も何もかも南極とは違い過ぎて、どちらかの世界が夢や幻なのではないかと感じてしまうほどです。

通りを歩いても、咄嗟に人をよけるのが下手になっていてぶつかりそうになります。  見知らぬ人なのに、目の前からやってくる人になら誰だって、ついつい挨拶をしてしまいそうになります。 ふと気づくと、公園のベンチでハトを見ながらボーッとしていることがしばしばです。

ハタから見ればただの腑抜けかもしれませんが、そう、これが紛れもない、「南極病」です。

いわゆる普通の人間社会・文明とはあまりに違う南極という世界に長くいたせいで、街の生活に適応できないことや、俄然やる気が出てこないことを、私たちは南極病と勝手に呼んでいます。 帰国から1カ月~半年くらい、ほとんどの隊員がこの“病”にかかるんですよ、本当に。 人によっては1年経っても治らないという話もよく聞きます。

私など、道端で見つけたネコを触るために、自然と地面に寝転んでしまったりするのですが、道ゆく人々の奇妙な視線を感じてハッと我に返ることも何度かありました。

さて、話を昭和基地最後の夜に戻しましょう。 2012年2月18日に私は野外生活を終えて昭和基地に入り、3日間過ごしたのち、2月21日に昭和基地をあとにしました。

昭和基地を去る最後の夜には、越冬隊の仲間たちとの別れを惜しみ、基地のバーでは夜通しにぎやかな話し声が響いていました。 昭和基地最後の夜は通算3度目になりましたが、毎回、寂しいけれどとても楽しい夜になります。

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 え?! 昭和基地にはバーがあるの?! と驚く方もいるかもしれません。

そうなんです、なんと昭和基地にはバーがあるんですよ。 と言っても、もちろんバーテンダー業務は隊員たち自らでやるわけですが。 さらに、毎日開店するわけではありません。 52日間にわたる野外調査を終えて昭和基地入りした私は、すっかり達成感と疲労感と安堵感と燃え尽き症候群を抱えた状態で気が抜けてしまっていたものの、最後の夜は、仲間の隊員が持ってきてくれた我が故郷・青森の酒を飲んで楽しく過ごしました。

これから1年間、越冬隊はほんの30名だけであの昭和基地で過ごすのかと思うと、なんとも言えない気持ちになります。 楽しんでね、頑張れよ、元気でね、という気持ちと、あの南極という世界のすべての季節を見て、そこで時間を過ごすことができることへの羨ましさが入り交じった気持ちです。 きっと1年後、みなたくましくなって、元気に帰ってくるのでしょう。

さて、昨年の11月末から約4カ月間にわたってこの「南極なう!」を連載してきましたが、そろそろ筆を置くときがやってきました。 これにて、南極なう!は終わりますが、私の南極研究はまだまだこれから。 ずっとずっと続いてゆくのです。採取してきたばかりの湖の中の植物や水のサンプルを使って、南極湖沼の生態系の遷移過程や進化史を追求することになります。 湖の底に設置してきたカメラから、また知られざる世界が見えてきたり、新しい発見があるかもしれません。

限られた人生の時間の中で、これから私は何度、あの大陸に立つことができるのでしょう。 また数年後、きっと降り立てる日が来ることを願って。

2012年4月1日 桜が開花し始めた東京・三鷹にて

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 === 続く ===

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