現代の探検家《田邊優貴子》 =57=

◇◆ Great and Grand Japanese_Explorer   ◇◆

“National Geographic Magazine”より

 南極の凍った湖に潜って、原始地球の生態系を追う =田邊優貴子= 

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◇◆ 第25節 特別編「北緯79度なう!」 =3/4= ◇◆

 南極の中でも、昭和基地のある大陸性南極(ざっと分けると、南極半島ではないエリアのこと)では、今のところ地球温暖化の影響が確認されていません。けれど、南極半島ではその影響が現れはじめ、さらに北極ではとても顕著に現れていると言われています。 実際に、ここニーオルスンの私たちの調査地にある東ブレッガー氷河は最近急激に後退しています(下の写真)。

温暖化は、植物の侵入と定着の過程に変化をもたらす可能性があります。 原因は、それぞれの植物の温度に対する応答の違いから来る直接的な変化の場合もあれば、氷河の後退スピードが増加することで植物それぞれの侵入速度の違いから来る変化の場合もあるはずです。

裸地への植物の侵入と定着メカニズムという純粋な学問的問題に迫ることがもちろん第一にあります。 けれど、そのメカニズムが明らかになることで、それをベースとして環境変動に対して植物や生態系がこれからどう応答していくのかを知るべく、予測を立てやすくなります。 こうやって、今どんなことが起きているのか、これからどうなっていくのかを学問的な根拠によって提示できれば、環境問題に対して方策を考えていくことにもつながっていくのです。

この夏、スヴァールバル諸島はあいにくの悪天候続きでした。 例年の夏ならば、ある程度天候が安定し、晴れることが多いのですが、なんと今年はほとんど霧か雨・・・。 よくて曇り、でも風が強い・・・なんていう日ばかり。

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 こうも天候が悪いと、人間ってやつは心が荒んでくるものです。 限られた日数の中での調査計画を数人で協力して行うわけで、調査に出かけられない日が続くとみな焦り、日本の観測小屋の中は負のオーラで埋め尽くされ、人々は言葉少なになっていきます。 逆に、そんな中で少しでも天候がよくなると、それはそれでもう大変。通称「白夜の魔力」で、早朝から深夜まで馬車馬のように働き続けることとなり、夜が来ない世界が持つアンビバレンスをいやがおうにも感じさせられるのでした。

珍しく快晴が訪れた日、小屋から西に歩いて2~3時間ほどの位置にある、パフィンという派手顔の海鳥が集団で棲息するバードクリフと呼ばれる高さ250mほどの断崖絶壁を登りました。 バードクリフ直下に生えている植物と、パフィンのフンと卵の殻を試料として持ち帰るためでした。

バードクリフの下から見ると、頂上は礫がゴロゴロした荒々しく険しい雰囲気が漂っています。 この断崖絶壁のおかげで南から吹く風が遮られているものの、頂上に登った瞬間に風が吹き付けてくるに違いない・・・覚悟を決め、地形図を見ながら、アタックできそうなラインを決め、ゆっくりと慎重に登っていきました。

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 頂上に辿り着くと、目の前に現れたのは下から想像していた世界とは全く違う、まるで天国のような光景。 真っ白なチョウノスケソウの花が無数に太陽の光を反射し、キラキラと穏やかな風で揺れていたのでした。 振り返ると、眼下に切り立った崖と海が見下ろせ、海を隔てた向こう岸には氷河と山々が連なっています。 空が近いこの場所で、信じられないような花畑の中、少し歩くと、突如目の前に若いトナカイが現れました。 陽光に照らされたトナカイは、神々しくもシルエットが光で縁取られていました。ますます異世界に迷い込んだ気分になった私は、トナカイも人間の言葉を話せるような気がして、

「やぁ。調子はどう?」

なんて、ついつい話しかけてみたのです。
しかし、トナカイはしゃべるわけもなく、一目散に逃げていき、夢見心地だった私はやっと正気に戻ったのでした。

小屋への帰路、東ブレッガー氷河と山には、少し低くなった太陽からの光でくっきりとした陰影が刻まれていました。 その光景があまりにも美し過ぎて、たまらず涙が滲んでしまいました。たいして眩しくもないのにサングラスをかけてこっそりと隠したのは言うまでもありません。 そして私はそれまでの悪天候続きなど忘れて、本当に来てよかったと心から思い、また翌日からの調査を頑張ろうと誓うのでした。

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 === 続く ===

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