現代の探検家《田邊優貴子》 =60=

◇◆ Great and Grand Japanese_Explorer   ◇◆

WEB マガジン ポプラビーチ powered by ポプラ社”より加筆転載

 北極・南極、アァー 素敵な地球のはて =田邊優貴子= 

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◇◆ 果てしない南極海の氷原で = 1/3 = ◇◆

 2009年12月15日、ついに南極大陸から張り出す定着氷が目の前に迫ってきた。 この光景を目にするのは2度目になる。
海に浮かぶ氷と言えば、知床あたりで冬に見られるオホーツク海の流氷を思い浮かべるかもしれない。 けれど、「定着氷」はもっと分厚くて、まだ見ぬ水平線の向こうにある南極大陸の沿岸に、定着して動かない氷である。 流氷のように割れた氷がプカプカと漂っているようなたたずまいではなく、一見すると、ただの陸地のようでしかない。

オーストラリア・フリーマントルを出港して16日目のことだった。 暖房がしっかりと効いた砕氷船「しらせ」の部屋の中は、薄手の長袖一枚でも十分に暖かい。 はやる気持ちを抑えながら、フリースと薄手のダウンを着込み、ヤッケを羽織る。 ネックウォーマー、毛糸の帽子、サングラスと手袋を装着し、甲板に続く廊下を急いだ。

甲板に出ると、頬にひんやりとした空気を感じるが、思っていたほど寒くはない。 おそらく気温はマイナス10℃くらいだろう。すぐ目の前には青く光る巨大な氷山がそびえ立ち、ビッシリとした氷の海が水平線の向こうまで果てしなく続いている。 頭上には雲一つない晴れ上がった白夜の深い青空がどこまでも広がっていた。 太陽があたり一面の氷や雪で反射してとても眩しく、サングラス無しでは目を開けていられない。
2年前にも一度来たはずなのに、いざ来てみると、その記憶をはるかに越えている。 やはりここは圧倒的で信じ難い世界だ。

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 しらせは氷を割って定着氷の中に入り込み、船体を固定して、いったん停泊した。 船が停まると、辺りは一気に静まりかえり、胸の鼓動が聞こえる。 青と白しか存在しない世界に、私は嬉しくて叫び出したい気分だった。

しばらくすると、はるか遠く水平線近くの巨大な氷山のあたりに黒い点が動くのが見え始めた。 それは、列をなしてこちら側へ徐々に近寄ってくる。アデリーペンギンの群れである。 40~50羽はいるだろうか。 双眼鏡をのぞき、様子をジーッと観察していると、時折立ち止まりながらも、明らかに船に向かって進んできているように見える。

さほど時間がたたないうちに、群れはすぐ目の前までやってきた。 こちら側に興味を持って、少し不思議そうに近づいてきているのがわかる。 「グワーッグワーッ」
彼らに向かって大きな声で鳴き真似をしてみると、彼らも呼応するように、「グワーッ」と鳴き、スピードを上げて走りよってくる。何の警戒心もない彼らを見ると、心が一気にほどけていく。 そうこうしているうちに、しまいには船の真横でみんな身体を休めてしまった。 立ったまま毛繕いするものもいれば、ゴロンと腹這いになって氷の上で寝てしまうものもいる。 陽を浴びた胸の白い羽毛が反射し、驚くほどキラキラと光り輝いている。

ある一羽が突然走り出すと、打ち合わせをしたかのように、他のみなもいっせいに動き出した。氷縁に向かって、みな氷の上をぎこちなく走ったり、腹這いになってフリッパー(ペンギンで言うところの翼)と足を動かしながら橇のように滑ったりして進む。 そのまま氷縁から順々にジャンプして、水しぶきを上げながら海の中へ飛び込んでいった。

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 氷上での、あんなにもぎこちない動きからは想像もつかないほど、弾丸のように俊敏に自由自在に泳ぐ姿が、深い蒼色の透明な南極海の水越しに見える。 一羽が水の中から勢いよく氷の上に飛び乗ると、その他のアデリーペンギンたちも次々とジャンプして海から上がってくる。 何度かこんな行動を繰り返し、また氷の上で群れになって身体を休めていた。

ふと、遠くの方からまた他のペンギンの鳴き声が聞こえた。 その瞬間、それまでのんびりと休んでいたアデリーペンギンたちが少しザワつき出した。ある一羽が立ち上がって周囲をキョロキョロ見回し、先ほどの声に呼応するように鳴き声を出した。 すると、今度はまたそれに呼応するようなタイミングで、先ほどの鳴き声が再び遠くから聞こえた。明らかに何か会話をしている。

しかし、どうも遠くから聞こえる鳴き声に違和感があった。 確実にペンギンの鳴き声ではあるのだが、目の前にいるアデリーペンギンのものとは少し違い、低音なのである。 声のする方向へ目を凝らしてみると、小さな黒い点が遠くに一つだけ見える。ゆっくりと近づいてくるその黒い点の姿が、徐々にはっきりとしてきた。
一羽だけでノソノソとやって来たそのペンギンは、アデリーペンギンよりもはるかに大きく丸々としており、胸元とクチバシには鮮やかな黄色とオレンジ色の部分がある。コウテイペンギンだ。 コウテイペンギンとアデリーペンギンは何度も鳴き声で呼応し合い、場所を確かめ合っているようだった。
コウテイペンギンはどんどん近寄ってきて、なぜだかわからないが、アデリーペンギンたちもコウテイペンギンの元へ移動し始めた。 そして、ついに彼らは合流し、声は聞こえないがお互い立ち上がって向き合い、何か会話を交わしているように見えた。本当に道ばたで世間話でもしているような雰囲気で、その様子を見ていると、今にもヒソヒソ声が聞こえてきそうだった。

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=== 続く ===

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