現代の探検家《田邊優貴子》 =68=

◇◆ Great and Grand Japanese_Explorer   ◇◆

WEB マガジン ポプラビーチ powered by ポプラ社”より加筆転載

 北極・南極、アァー 素敵な地球のはて =田邊優貴子= 

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◇◆ 音が融けだす世界= 3/3 = ◇◆

  雪原を越えると、谷がどんどん狭まってきた。 ついに、遠くのほうに青く光る氷河が見えた。 氷河に近づいていくと、氷河の真ん中が黒くなっている。 さらに近づくと、その黒い色の正体がはっきりとしてきた。 ポッカリと穴があいているのだ。

氷河が目の前に迫ると、その穴はとてつもなく大きい。 2車線道路のトンネルくらい、直径30メートルはあるだろうか。 崖をよじ登って穴の入り口まで近寄ると、穴は氷河を貫通していた。 貫通した向こう側から眩しい光が差し、私は美しく透き通った青い氷河のトンネルにそのまま吸い込まれそうだった。

けれど、そんな青の世界の中に入ってみたいという気持ちを、グッとこらえた。 というよりも、一瞬でその気がなくなったと言ったほうが正しいかもしれない。 奥をのぞくと、トンネルの天井が崩落して、直径2~3メートルの青い氷の塊がゴロゴロといくつも転がっており、よく見るとトンネルの入り口や下にもたくさん転がり落ちている。
もし、それが今崩れて落ちてきたら……。 背筋がゾッとした。

この氷河トンネルの向こう側には、氷河池という湖がある。 氷河池はこの氷河で堰き止められてできている湖だったのだが、ちょうど私がこの場所に来る1年ほど前、この氷河に穴があいているようだという情報が南極で越冬している研究者から入ってきた。 その前の年には穴はないことが確認されていたので、恐らく2年ほど前に、堤防になっていた氷河が決壊して氷河池の水が一気に流れ出し、大きな穴が開いたに違いない。

それを自分の目で確かめるため、また、その裏側にある氷河池の状況を調査するためにこのヤツデ沢にやってきたのだ。  ここに来る前から、氷河に穴が開いていることを知ってはいたはずなのに、実際にそれを目の当たりにすると、頭の中で想像していたスケールを遥かに越えていた。

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  私は氷河トンネルを後にし、もとの谷筋に戻った。そこから氷河を迂回し、狭い岩場をのぼり、雪渓を越えていった。 尾根にさしかかったところで、さっきまでいた氷河トンネルの下流側、氷河トンネルの全貌、上流側の氷河池、さらに上流にある氷床末端の平頭氷河までもがすべて眼下に広がった。 そして、後ろを振り返れば、水平線まで果てしなく広がる氷の海や氷山が見渡せた。 なんて壮大な眺めだろう。

尾根を降り、氷河池を目指して行く。 湖岸までたどり着くと、そのまま透明な氷で覆われた氷河池の上を歩き、さっきまで向こう側から見ていた氷河トンネルの上流側に立った。 こちら側から見ると、冬の間に降り積もった雪と崩れた氷河によって、ずいぶん穴が塞がっているのがわかった。
足下の氷河池を覆う透明な氷に目を向けると、湖底の石礫が透けてはっきりと見える。 どうやらかなり浅い。 氷河池の周囲をよく見ると、少し前まで明らかに水の中だった部分が露出している痕跡があった。 それはなんと、今の水位より6~7メートルくらいは高いようだった。

さっきまで、ずっと登ってきた谷の風景を思い起こした。 湖の水が突然、南極の静寂な空気を引き裂き、氷河の堤防を突き破った瞬間。 轟音とともにおびただしい量の水がこの谷を一気に流れていった様。 ほんの少し前に確実に起きたその出来事を頭ではわかっていても、本当に理解することなどできず、目の前の大きすぎる自然に私はただただひれ伏すしかなかった。

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   夕方、太陽はまだ眩しく輝いている。

谷を下りて小屋の裏まで戻ると、いつもの水汲み場で、トウカモがパシャパシャと音をたてながら水浴びをしていた。 ポカポカとした陽気に照らされて、とても気持ち良さそうだ。 つがいではなく独り身なのか、ゆったりとしており、まったく襲ってくる気配はない。 楽しい風呂の時間を満喫しているかのようだった。

恐ろしいほどの静寂に包み込まれた南極は、あまりにも情報が少ない世界なのだろう。 だからこそ、そんな世界が持つ豊かさを私は自分の中に確実に感じることができた。 けれど、きっと単に取り戻しただけのことなのだろう。 それは、誰もが持っていたはずの力、あえて言葉を探すとしたら、日々の生活の中で忘れてしまっていた想像力のようなものだと思う。

トウカモが水浴びでたてる音、融け出した沢の水が海に流れていく音、海の氷が融ける音、きしむ音。どれも本当に小さな音だったが、その音は私の心を豊かにさせる強い力を持っていた。

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  === 続く ===

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