民族のソウル・フード探訪 =148=

◇◆ 世界魂食紀行 ソウルフード巡礼の旅   ◇◆

【“NATIONA GEOGRAPHIC/日本語版(文=中川明紀・編集者)”に追記補講】

味の七変化を楽しむ チリの庶民料理 =1/3= ★

​ ​​郷土料理ー1

​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​ きっかけは1月末に発表された財務省の貿易統計。 日本における昨年のボトルワインの輸入量(スパークリングワインを除く)で、南米のチリ共和国が長年トップだったフランスを抜いて1位になったという。

チリワインの魅力を一言で言うと「安くて美味しい」。 もともとの物価に加えて、2007年に結ばれた日本・チリ経済連携協定によって段階的な関税の撤廃が決まったことが理由にあるらしい。 そのうえ、ワインの産地であるチリ中部はブドウ栽培に適した地中海性気候。良 質なブドウが栽培され、ワインのほかにブドウの蒸留酒「ピスコ」もつくられている。

確かにチリワインは酒屋でも飲食店でもよく見かけるようになった。 だけど、チリ料理はどうだろうか。考えてみたがこれというものが浮かんでこない。 そこで、日本に数軒しかないチリ料理のお店のひとつ、東京・中野の「ラ・カーサ・デ・エドゥアルド」を訪ねることにした。

東京メトロの新中野駅を出てすぐ、店頭にはドンとモアイ像が置かれていた。 「そうか、イースター島はチリ領だったな」とつぶやきながらドアを開けると、壁にかかっているのは南米の民族衣装であるポンチョとソンブレロ(つばが広い帽子)。 ラテン的な店内の雰囲気に気持ちも高ぶってくる。

応対してくれたのは、チリから来日して約20年という店長のアントニオさん。 さっそくチリ料理について尋ねると、「代表的なのはバーベキューですね。 チリに限らず、南米では家族や友人たちと集まるとバーベキューを楽しむんです」と言う。なるほど、確かに店頭のモアイ像のすぐそばにバーベキューグリルが置いてある。アントニオさんは話を続けた。

「でもそれは屋外で食べる場合。そのほかにチリでは、家族が集まった時に必ずといっていいくらい食卓に上る料理がありました。 それは私にとって、とても思い出深い料理です」。アントニオさんの心に残る料理とはどんなだろう。 その話を聞こうとすると、「まずは食べてみて」とその料理をだしてくれた。

「パステル・デ・チョクロです」

丸い耐熱容器に入ったそれはグラタンのように見えた。 しかし、こんがり焼けた表面の黄色はチーズではないという。「トウモロコシのペーストです。 スペイン語でチョクロがトウモロコシ、パステルはケーキを意味するんです」と、アントニオさんが教えてくれた。 つまりは、トウモロコシケーキってこと!? 甘いお菓子なのかなと想像しながら、スプーンですくってみる。

トウモロコシペーストは見た目以上にフワフワ。 その下には炒めた牛ひき肉と玉ネギをベースに、ゆでたまご、オリーブ、干しブドウが入っている。 口に入れるとペーストがほろりとくずれ、豊かな香りが広がった。トウモロコシのほのかな甘みはあるものの、牛肉やオリーブの塩気が強く、お菓子という感じではない。 しかし、具材それぞれがトウモロコシと絡み合って、口に入れるたびに味わいが変化するのがおもしろい。

郷土料理ー2

アサードとは、パラグアイやウルグアイやアルゼンチンでも食される、焼肉料理であり、チリの国民が愛する郷土料理。 因みに、アサードはスペイン語で「焼かれたもの」を意味する。

19世紀後半にガウチョの食文化が都市に伝播して生まれた。 味付けは基本的に岩塩だけであったり、チミチュリと呼ばれるタレに浸す場合もある。 家族や友人、親戚を招いて食べるのが基本であり、シェハスコのように火が立つ炭火で炙るように焼くのとは違い、火も弱まった熾火の熱で部位そのままのブロック肉を燻すように焼くため焼き上がりまで1時間強程の長時間を要し、加熱調理し終わった頃がそのまま食事時となる。

店舗などでは程よく焼けた頃合いのものを注文に応じて切り分けて供され、南米スペイン語圏においてアサードは人々の交流を深めるための役割を果たしている。 トーストしたパンにアサードで加熱調理した(チョリソー)ソーセージを挟んだ「チョリパン」は庶民の定番軽食。

カスエラはチリで一般的な料理である。 最も一般的なカスエラは鶏肉もしくは牛肉から作るものだが、豚肉や七面鳥を用いて作るカスエラも存在する。

一般的なチリのカスエラの材料としては、骨付き肉(牛肉の場合はスペアリブ、鶏肉の場合は手羽先)、ジャガイモ、カボチャであり、さらにこれらの材料を一緒に茹でた出汁も使用する。 また、出汁を使用して調理した米や、細麺、サヤインゲン、セロリ、スライスした人参、大蒜、キャベツ、その他の野菜を加える事もある。 夏季には、カスエラにトウロモコシを加える事もある。

カスエラは通常最初に液体状の出汁をすべて飲んだ後、次に肉と大きめの野菜(ジャガイモ、カボチャ、人参など)を食べる。 しかし、肉と大きめの野菜は薄くスライスされている場合もあり、この時はスープと同時に食べることもできる。

チリのカスエラはスペイン植民の料理、オジャ・ポドリーダとよく似ているが、チリのカスエラもまた”korrü”と呼ばれるマプチェの出汁にそのルーツがある。

郷土料理ー3

 === 続く ===

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