睡眠の都市伝説の真意 =048=

☆彡 睡眠の都市伝説を斬る =三島和夫・睡眠研究者= 彡☆

【この企画は“Webナショジオ・連載/睡眠の都市伝説を斬る”に追記補講した】

起きたい時に目覚める不思議なチカラ =3/3=

 睡眠研究=1

​​   さて、研究の結果、睡眠中のあるホルモンの分泌パターンが実にユニークな挙動を見せたのだった。

 そのホルモンとは副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)である。ACTHの生理作用の1つが強力な覚醒効果で、通常は深睡眠が多い午前3時頃まではACTHが低く抑えられ、その後明け方に向けて徐々に分泌が増加する(図の平常夜)。ところが驚いたことに、「6時に起きなきゃ」と考えた自己覚醒夜では起床予定時刻の1時間以上前の午前4時過ぎからACTHが急に高まったのだ! その一方で、同じ6時に起こされたにもかかわらず「9時でいいんだ」と信じて寝たサプライズ夜では普段と同じ分泌レベルに留まっていたのである。

   「ACTHが早く分泌するのが驚きなのか?」と問われれば、「もう吃驚!」と答えざるを得ない。 ACTHの分泌リズムは体内時計に強固にコントロールされていて、自分の意思で分泌時刻を変えることなど不可能と考えられていたからである。 その頑固なはずのACTHが、簡単な暗示で、こともあろうに寝ている間に普段と違う挙動をするなどということは簡単に信じられない、というのが一般的な研究者の反応である。

この研究結果は非常に有名になったのだが、まだ世界のどの研究機関においても追試(再現)されていない。 実はこのようなことはよくあるのだ。 手間がかかって容易に追試できない研究などはそのまま舞台裏に消えていくことも少なくない。 ただし、このネイチャー論文はそれまでの常識を覆す内容を含みさまざまな論議を巻き起こしたため、いずれ白黒つけなくてはならないだろう。

仮にこの研究結果が正しいとすれば、体内時計(24時間時計)とは異なる別の強力な時計(タイマー型もしくは砂時計型とも言う)が我々の体内に存在していることを意味している。 現在もそのタイマーのメカニズム研究が続けられている。強力なタイマーを持っていれば自己覚醒もお茶の子さいさい。 先回話題になった睡眠慣性の悩みも一発解消である。 一方で、このタイマーが悪さをする可能性も囁かれている。 たとえば、毎晩判で押したように同じ時刻に目が覚めてしまう不眠症患者や認知症の高齢者ではタイマーが暴走しているのではないかというのだ。

自由自在にオンオフ切り替えられるタイマー調整剤の新薬治験が始まるときには、被験者第1号は私の長男坊を推薦したい。 その頃には私の方は認知症の夜間徘徊で服薬させられる側になっているかもしれないが。

睡眠研究=2

=資料・文献 (The Wallstreet Jouurnal)= 

十分な睡眠にプラスの効果―給与や投資行動にも重要(3/3)

群集心理

別の言い方をすると、もしホワイトカラーの職に就いているのなら、睡眠不足が解雇につながることはないかもしれない。  だがそれは、あなたが昇進を阻む可能性がある。  金融市場で多く見受けられる「群集心理」を説明するのにも役立つかもしれない。

だが、革新的かつ創造的な思考が必要とされる職に就く人が増えているにもかかわらず、われわれの睡眠時間は減り続けている。

われわれの睡眠時間は、祖父母の時代よりかなり短い、と専門家は指摘する。サイスラー博士によれば、平日の睡眠時間が6時間に満たない人は労働者全体の20-30%を占める。同博士によれば、50年前はこの比率が2-3%だった。

専門家たちは、照明や目覚まし時計のほか、現代はインターネットやスマートフォンがこの原因になっていると指摘する。

サイスラー博士は、「起きるのに目覚まし時計が必要だとすれば、既に十分な睡眠を取っていない証拠だ」と警告する。  同博士の患者の中には、ベッドの横のテーブルにスマートフォンを置いて、夜寝る直前や朝起きた直後のほか、夜中目を覚ましたときにメールをチェックできるようにしている人がいるという。

同博士は、これを「異常だ」と指摘した。

睡眠研究=3

 === 続く ===

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