民族のソウル・フード探訪 =155=

◇◆ 世界魂食紀行 ソウルフード巡礼の旅   ◇◆

【“NATIONA GEOGRAPHIC/日本語版(文=中川明紀・編集者)”に追記補講】

知ってほしいクルドの味 =2/3= ★

​ ​​郷土料理ー1

 隣のキッチンではクスクスを使ったスープ、ロホケ・マストをつくっていた。 これもポピュラーな家庭料理だという。 クスクスはデュラム小麦を原料にした、いわゆる“粒状のパスタ”。 北アフリカ発祥とされるが、「クルドでも食べるのかあ」と思って見ると、なんと水をいれてクスクスをこねている。 塩コショウ、玉子、唐辛子、粉末のナーネ(ミント)も入れ、パン生地のようにこねあげていく。 けっこうな力仕事だ。

「これを団子にするんです。さあ、手にオリーブオイルを塗って」と、スープ担当の女性に促されて手の平にオイルを塗る。団子を丸めやすくするためのようだ。 よーし、やるぞと意気込むが、またびっくり。 団子というからミートボールサイズかと思いきや、大豆サイズじゃないか。 生地はハンドボールくらいの大きさがある。これから大豆サイズの団子を一つひとつ丸めるのか……。

「これはなかなか根気のいる作業ですねー」と生徒の一人が笑った。 「ほんと、ほんと」と、団子を丸めながらの会話が弾む。クルドの女性たちも世間話をしながらみんなでつくるそうだ。 「粘土遊びみたいで楽しいね」。 そうMちゃんが言うと、「楽しいのは最初だけで、だんだん面倒になるんですよ」とクルドの女性たちは笑った。

団子づくりに没頭しているうちに、ナスとピーマンの具材詰めが始まったようだ。 いったん手を止めて見にいく。 具は米にひき肉、トマトペースト、みじん切りにした玉ネギとニンニクを混ぜ、塩コショウと唐辛子、レモンスズなどで味付けしたもの。レモンスズとは粉末レモンのようなすっぱい調味料。 クルドの家庭には必ずあり、サラダなどいろいろな料理に使うそうだ。

「ひき肉は羊です。 クルド人は羊が一番好きで、私が生まれた地域ではみんな飼っています。 山の草を食べさせる夏はミルクやチーズがすごく美味しいんですよ。 料理に羊の脂を使うことも多い。 うちは6人家族だから一カ月に30キロくらい食べますね」

グレさんが言う。 1人当たり5キロとはけっこうな量だ。 具材はナスやピーマンにつめるほか、塩漬けにしたブドウの葉でも巻く。 「ブドウの葉はやわらかいので小さな子どもでも食べやすい。 クルドでは歯が生えてきたら、この料理を食べます」とグレさん。離乳食くらいの時期から食べるってことか!?

辛いが大丈夫なのかと問うと、「小さい頃から日常的に食べているから大丈夫」とグレさんは笑う。 乳幼児には刺激が強い気がするのだが、これも文化か。 「お、ビールのつまみになりそう」と言うのは、ブドウの葉を味見したMちゃん。 日常的に酒を飲むことが文化の酒好きである。

具を詰めたら蒸してできあがりだ。 ピスタチオを使ったデザートも次々と焼き上がり、サラダもできあがっている。 あとはスープかな、と振り向くと……まだ団子をつくっていた。 こりゃ大変だと手伝いに走る。 みんなで無心にコロコロと団子を丸め、ようやく生地がなくなった時には歓声が上がった。

しかし、まだ終わりではない。 羊のすじ肉を煮込んだスープにひよこ豆を加え、沸騰させてから団子を投入。 ニンニク、塩コショウで味付けし、ヨーグルトをたっぷりと加えて、最後に唐辛子粉とナーネを入れて熱したオリーブオイルを豪快に入れて完成。 なかなか手の込んだ料理だ。 「つくるのが大変だからあまり好きじゃないのよ」なんて笑う人もいた。

郷土料理ー2

= 資料 =

日本クルド文化協会によると難民などで、構成される在日クルド人の数はおよそ2000人とされる。 特に埼玉県蕨市(わらびし)や川口市を中心とした埼玉県南部には、1990年代にトルコ政府の迫害を恐れたクルド人たちが友人を頼って来日し、トルコ国籍のクルド人の難民約1300人が集住している。蕨市周辺はワラビスタンとも呼ばれている。

背景として、川口市は鋳物産業が盛えた工業の街で、中堅・中小企業が集積しているため外国人労働者に寛容だったようである。 日本政府による難民認定を申請しているものの、後述の理由もあり実際に認められるのは稀である。 日本人女性と婚姻して滞在許可を得ることを画策する人も少なくないが、不法滞在者や特別許可による滞在が大多数を占めている。

ネブロスと呼ばれるクルドの新年を祝う祭りなどを蕨市内の公園で盛大に祝う、など、彼らはクルド文化を紹介するイベントを開催し、周辺住民と積極的に交流している。 また、クルド人はもともと宗教的な民族ではなく世俗主義的であるため、イスラム主義とは距離を置いている人が多く、お祈りをしない人も珍しくない。

クルド人は建設業や飲食業で働く人が少なくない。 不法就労するものも少なくないが、日本人との婚姻等で永住権を取得するなどして合法的な就労ビザを取得した人の中には起業する人もおり、日本国内にはクルド人が設立した会社がおよそ20社ほどあるとされる。 クルド人が日本で定住を始めてから長い年月が経ち、生まれも育ちも日本というクルド人も生まれている。 しかし、就労許可が無いために大学を卒業しても就労できない者が出るという問題も起きている。

郷土料理ー3

 === 続く ===

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