現代の探検家《田邊優貴子》=083=

○◎ Great and Grand Japanese_Explorer ◎○

【この企画は“Webナショジオ・連載/日本のエクスプローラー”に追記補講した】

Ӂ 南極の凍った湖に潜って、原始地球の生態系を追う =田邊優貴子= Ӂ

◇◆ 季節の在り処 = 3/3= ◇◆

  私たちはパフィンが着陸成功した辺りまで移動してみることにした。 そしてその場に寝転がって真上の崖を見上げてみて、驚いた。 その崖の岩の隙間には、頂上まで何層にも連なってパフィンたちが営巣している姿があった。 それはまるで6〜7階建てのマンションのようで、ちょうど頭上に見える範囲だけでも、ところ狭しと各階に1〜3羽のパフィンが棲んでいるのだった。 すると、ちょうど海側からまた1羽のパフィンが戻って来て、よりによってすでに3羽もいる場所に着陸しようとしたのである。 3羽はザワつきだし、なんだか慌てているように見えた。

どう考えてもあのスペースには入らない、ただでさえ着陸が下手なのに……。 見ている私までハラハラと心配になって、これから襲いくる恐怖に脅える3羽の気持ちを察した。 案の定、海から飛んで来たパフィンは、すでにいた3羽のうちの1羽にぶつかり、背中にアタックする格好になってそのままゴロンと転んだ。 その瞬間、私は大声を上げてその場で大笑いしてしまった。しかも、新しくやって来たパフィンはそのまま、まるで何事もなかったかのように、その窮屈な場所にぎゅうぎゅう詰めになって居座ってしまったのだから、余計に可笑しい。

必死で大真面目な彼らを笑うのは失礼かもしれない。 けれど、なんだか間抜けなその行動に、出会ってわずかな時間しか経っていないにもかかわらず、強い愛着が湧いていた。

場所を移動してよくよく観察してみると、いたるところにパフィンの姿があった。 しかも、崖の頂上のある一角には数十羽もの姿が。 さらに頂上のわずか下の辺りには、よく見るとパフィンだけでなくヒメウミスズメが小さな岩の隙間に営巣している。 まさにその名の通り、ここはバードクリフ=鳥の断崖絶壁だった。 その光景はいつまでたっても飽きることはなく、しばらくのあいだ仰向けになって崖を見上げ、パフィンたちの様子を眺め続けた。 晴れ上がった青空を背景に、勢いよく飛び立ち、バタバタと戻ってくる何十羽ものパフィンを私たちは見送った。

  いつの間にか、海から吹きこむ風が徐々に強くなり始めていた。 夢中になっているうちに時間がたち、そろそろ帰路につかなければ夕食に間に合わない時刻に差しかかっていた。 名残惜しいが、私たちはこの場をあとにし、海岸線へ降りることにした。 登って来たときよりも、下りのほうが不安定なため、一歩一歩着実にコケをクッションにして感触を確かめるように慎重に下っていく。 ザックを置いていた場所まで戻り、すっかり冷えこんでしまった身体を温めるため、ザックからテルモスを出して紅茶を飲み、ヤッケの内側に薄手のダウンを着込んだ。
辺り一面、相変わらず鮮やかな黄緑色のツンドラカーペットがキラキラと輝いている。 そんな黄緑色の景色の中、振り返ると、背後には岩肌が剥き出しになったバードクリフが険しく切り立っていた 。風がツンドラを吹き抜け、キンポウゲの花を大きく揺らしていた。

小屋に戻った私は、夕食をとったあともしばらくのあいだ、今日出会った数々の出来事でなかなか興奮が冷めずにいた。 いつの間にか、さっきまでの快晴が嘘のように、窓の外に見える景色がすっぽりと雲に覆われている。

あと数日で、ここを離れなければならない。 日に日に太陽高度は下がり、少しずつ気温は低下している。 そこら中に咲き誇っていた花畑も今やほとんどが枯れてしまい、芽吹きたてだったキョクチヤナギの濃い緑の葉も黄色くなっている。 深夜にはほんのりオレンジ色を帯びた空になり、頬を撫でるように柔らかく吹いていた風はもはやどこにも見当たらない。 あんなに小さかったトナカイやグースの子どもはすっかり大きく成長し、あと少したてば一人前になるのだろう。

 この山々と氷河とツンドラの大地の中ではほんの点でしかない生き物たちだが、それによって、この世界が持つ広がりがより一層際立っていた。 そして、このあまりにも短すぎる夏の瞬間瞬間に生を営んでいる彼らから、とてつもなく強い命の佇まいと閃光のような煌めきを感じるのだ。 子どもの頃に見た極北の映像になぜか目が釘づけになったのは、そんな世界の広がりや果てしなさ、生き物たちが発する煌めき、季節そのもの、そんなことに対してだったのかもしれない。

  子どもの頃から憧れ続け、21歳の時に初めて実際に目の当たりにした極北の大地とそこで過ごした日々のこと。 このツンドラの大地に降り立ったときに感じた、“やっと来ることができた”という気持ち。 ここスヴァールバルでの1か月間は、そんなこれまでのできごとや気持ちをよみがえらせ、再確認させてくれた。 今は、もうここを去らなければならないことが無性に寂しく、名残惜しいのだった。

出発の日、天候に恵まれ、予定通りセスナ機はニーオルスンに飛んで来た。 この日、ついに私は極北の大地をあとにした。  1週間後、ニーオルスンにまだ残っている仲間から写真付きのEメールが届いた。  “こちらはもう雪が降って、辺り一面真っ白です”

添付されていた写真に写っていたのは、私がいた1週間前とはすっかり様相が変わり白一色になった、いつも小屋から見ていたはずの景色だった。黄葉していたキョクチヤナギももうどこにも見当たらない。 極北の短い夏は完全に終わり、劇的に季節がめぐっていた。

・・・・・ PONANT 北極圏クルーズ ・・・・・

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