現代の探検家《田邊優貴子》=058=

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Ӂ 南極の凍った湖に潜って、原始地球の生態系を追う =田邊優貴子= Ӂ 

◇◆ 第25節 特別編「北緯79度なう!」 =4/4= ◇◆

 北極と南極。それぞれの野外調査の持ち物で一つだけ全く違うものがあります。 北極でしか持たないもの・・・それはライフルです。 南極では人間を襲うような野生動物はいませんが、ここ北極にはホッキョクグマがいます。 残念ながら(?)私は野外でホッキョクグマに出会ったことはまだありませんが、今ここで現れたら一巻の終わりだろうなぁ・・・と想像して震えることがあります。

ここ5年ほどで、村にホッキョクグマが出没することが格段に多くなったという話をよく聞きます。 前回来たときは、1カ月の滞在中に3回ほど出没情報が流れてきましたが、今回は平均して数日おきに流れてきます。 北極に何か異変が起きていることを感じずにはいられません。

最近はすっかり衛星が発達して、日本の研究室の中にいてもリアルタイムに世界各地のデータを得られる時代になっています。 もちろんこれはこれで効率的で素晴らしいことですが、それだけでは絶対に分からないことのほうが確実に多いのです。 いくら論理的に仮説を立てて、それを検証しようと緻密に研究をデザインして進めていったとしても、野外調査をしていくと予想外のことがしょっちゅう出てきます。

 例えば、(さっきのバードクリフに登頂した話もそうですが)南極の湖に1年間設置した水中データを記録するロガーを繋いでいたフロートが冬に発達した氷に飲み込まれて、氷の動きとともに湖内を縦横無尽に動き回ってしまったこともあります。 おかげで、取れたデータは全くもって意味不明・・・。

これまでの10年間のデータから、氷は最大1.5mまでしか厚くならないと分かっていたので、余裕を持って水面から深さ2m弱の位置にフロートが浮かぶように設計したものの、この年は氷が2m以上もの厚さになってしまったのです。 こんなことは予想をはるかに越えた事態で、一見ただのガッカリでしかないのですが、氷がそれほどまでに分厚くなるのだという事実の発見でもありました。

他には、大陸性南極の湖には動物プランクトンさえもいないと世界中で信じられてきたのが、実際に調査してみるとウニョウニョと動き回る動物プランクトンがいて「ぎゃあっ!」と現場で悲鳴を上げたこともあります。 他にも、何の発見もなくタダの失敗になってしまった切ない思い出など、挙げれば大小さまざま、 キリがありません。

こういうことは絶対に自らの身体で野外へ出て調査しなければ出てこないし、見えてこない。 予想外のことっていうのは、わけの分からないこともありますが、それこそが真実であったり、面白い発見であったり。そして、自分の中で完結していたそれまでの世界が単なる思い込みであったことを思い知らされ、新しい考えの世界が生まれます。

 そんなわけで、研究室や実験室での研究とともに、地球の果てのフィールドへ出て研究をしていくこと。 歩けなくなるまで、私は続けていくショゾンであります。

もっと南極や北極の自然と生き物の表情に触れたいなぁという方は、田邊優貴子著「すてきな 地球の果て」(ポプラ社)を是非手に取っていただきたい。
目と心に鮮やかな写真がふんだんに使われたこのエッセイ、静かに心に迫る一冊です!
と、最後にちゃっかり宣伝を。

では、そろそろこの辺で。
また会えるかな?
うん、また会えるでしょう!

2013年9月10日 ちょっとだけ秋の訪れを感じる東京・早稲田にて

・・・・・ 北極点到達競争 =ノーベル平和賞の探検家ナンセンの挑戦= ・・・・・

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◇◆ 第25節 特別編「北緯79度なう!」 =3/4= ◇◆

南極の中でも、昭和基地のある大陸性南極(ざっと分けると、南極半島ではないエリアのこと)では、今のところ地球温暖化の影響が確認されていません。けれど、南極半島ではその影響が現れはじめ、さらに北極ではとても顕著に現れていると言われています。 実際に、ここニーオルスンの私たちの調査地にある東ブレッガー氷河は最近急激に後退しています(下の写真)。

温暖化は、植物の侵入と定着の過程に変化をもたらす可能性があります。 原因は、それぞれの植物の温度に対する応答の違いから来る直接的な変化の場合もあれば、氷河の後退スピードが増加することで植物それぞれの侵入速度の違いから来る変化の場合もあるはずです。

裸地への植物の侵入と定着メカニズムという純粋な学問的問題に迫ることがもちろん第一にあります。 けれど、そのメカニズムが明らかになることで、それをベースとして環境変動に対して植物や生態系がこれからどう応答していくのかを知るべく、予測を立てやすくなります。 こうやって、今どんなことが起きているのか、これからどうなっていくのかを学問的な根拠によって提示できれば、環境問題に対して方策を考えていくことにもつながっていくのです。

この夏、スヴァールバル諸島はあいにくの悪天候続きでした。 例年の夏ならば、ある程度天候が安定し、晴れることが多いのですが、なんと今年はほとんど霧か雨・・・。 よくて曇り、でも風が強い・・・なんていう日ばかり。

 こうも天候が悪いと、人間ってやつは心が荒んでくるものです。 限られた日数の中での調査計画を数人で協力して行うわけで、調査に出かけられない日が続くとみな焦り、日本の観測小屋の中は負のオーラで埋め尽くされ、人々は言葉少なになっていきます。 逆に、そんな中で少しでも天候がよくなると、それはそれでもう大変。通称「白夜の魔力」で、早朝から深夜まで馬車馬のように働き続けることとなり、夜が来ない世界が持つアンビバレンスをいやがおうにも感じさせられるのでした。

珍しく快晴が訪れた日、小屋から西に歩いて2~3時間ほどの位置にある、パフィンという派手顔の海鳥が集団で棲息するバードクリフと呼ばれる高さ250mほどの断崖絶壁を登りました。 バードクリフ直下に生えている植物と、パフィンのフンと卵の殻を試料として持ち帰るためでした。

バードクリフの下から見ると、頂上は礫がゴロゴロした荒々しく険しい雰囲気が漂っています。 この断崖絶壁のおかげで南から吹く風が遮られているものの、頂上に登った瞬間に風が吹き付けてくるに違いない・・・覚悟を決め、地形図を見ながら、アタックできそうなラインを決め、ゆっくりと慎重に登っていきました。

 頂上に辿り着くと、目の前に現れたのは下から想像していた世界とは全く違う、まるで天国のような光景。 真っ白なチョウノスケソウの花が無数に太陽の光を反射し、キラキラと穏やかな風で揺れていたのでした。 振り返ると、眼下に切り立った崖と海が見下ろせ、海を隔てた向こう岸には氷河と山々が連なっています。 空が近いこの場所で、信じられないような花畑の中、少し歩くと、突如目の前に若いトナカイが現れました。 陽光に照らされたトナカイは、神々しくもシルエットが光で縁取られていました。ますます異世界に迷い込んだ気分になった私は、トナカイも人間の言葉を話せるような気がして、

「やぁ。調子はどう?」

なんて、ついつい話しかけてみたのです。
しかし、トナカイはしゃべるわけもなく、一目散に逃げていき、夢見心地だった私はやっと正気に戻ったのでした。

小屋への帰路、東ブレッガー氷河と山には、少し低くなった太陽からの光でくっきりとした陰影が刻まれていました。 その光景があまりにも美し過ぎて、たまらず涙が滲んでしまいました。たいして眩しくもないのにサングラスをかけてこっそりと隠したのは言うまでもありません。 そして私はそれまでの悪天候続きなど忘れて、本当に来てよかったと心から思い、また翌日からの調査を頑張ろうと誓うのでした。

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◇◆ 第25節 特別編「北緯79度なう!」 =2/4= ◇◆

 さて、私がここにきたのは、植物の調査をするため。

ツンドラの植生は、氷河が後退して出来た裸地に植物が侵入・定着して、時間をかけて徐々に発達してきました。 つまり、海側から氷河のある山側に向かって、氷の下から露出した時間の順になっています。 氷河に近くなればなるほど最近になって露出した地点というわけです。 おかげで、氷河の近くに生えている植物はかなりまばらで数少なく、海側に近くなるとフカフカの豊かな植生で埋め尽くされています。

フカフカの植生発達帯には様々な種類の植物がひしめき合っているのですが、氷河近くのまばらな植物たちを観察してみると、ある決まった種ばかりが生えていることが分かります。 そう、彼らはまだ見ぬ土地へと生息範囲を拡大する能力に長けたパイオニアなのです。このパイオニアたちがいち早く入り込んで定着し、徐々に土壌と栄養が蓄積されていって他の種も生育できるような環境に変遷していくのです。

 特に目立つパイオニアは、ムラサキユキノシタ(学名Saxifraga oppositifolia)という地面に這うように紫の花を咲かせる植物。 次に目立つのが、ムラサキユキノシタほどではありませんが、キョクチヤナギ(学名Salix polaris)。真ん丸でツヤツヤ緑色の葉は直径5mm~1cm、背丈も数mm~1.5cm。これが本当にヤナギ?!木の仲間?!と信じられないほどとても小さいのですが、スヴァールバルのツンドラ生態系の中で一番ハバをきかせている優占種です。

一方、これらに比べてパイオニアにはなれず、植生が発達したエリアで数多く生えている植物の中で、今回調査対象にしたのがArctic Mouse-ear(恐らく和名はつけられていませんが、和訳するとホッキョクミミナグサ?とでも言いましょうか。学名Cerastium arcticum)。ハート形の花びらが5枚並んだ真っ白な花が特徴的。そしてもう一つはタカネマンテマ(もしくはチョウチンマンテマ。学名Silene uralensis)。薄紫の提灯のように膨らんだ萼(がく)、その先端に取って付けたようにポンッと花が咲く、背丈が5cmほどのとってもキュートな植物です。

それにしても、なぜパイオニアの植物はパイオニアになれるのか? これが今回の調査の一番の目的です。
そのために、
◎ 植生の発達していないエリアと発達しているエリアでの環境の違い(温度、湿度、栄養、土壌など)
◎ それぞれのエリアで、植物にとって成長の基礎となる光合成がパイオニア種とそうでない種とでどのように異なるのか
を調べ、環境データと植物の光合成との関係から、種による光合成の違いを導く環境要因を見つけ、パイオニアになれるメカニズムを明らかにしたいと考えています。

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◇◆ 第25節 特別編「北緯79度なう!」 =1/4= ◇◆

  みなさん、とてもお久しぶりです。 南極から戻って早1年半。 今年の夏はもはや異次元のような暑さでしたね~。 なんて言いたいところですが、実は私、酷暑にあまり身を委ねることなくこの夏を過ごしてしまいました。 というのも、2013年7月1日~8月1日にかけて、北極へ調査に出かけていたからです。 さらに帰国後すぐにイギリスへ出張し、帰ってきたときにはもう8月末・・・・・・

ここ6年間の私は、夏は北極、冬は南極(向こうは夏)、春と秋は東京、なんていうちょっと常軌を逸脱した生活を送っています。 いや、もしかしたらこれが私の生活のスタンダードになってしまいつつあるのかもしれません。

「いい大人なんだから、もっと地に足をつけろ」なんて声が聞こえてきそうですが、すっかり開き直っている私には、もはやそんな言葉はただのそよ風。 スルリスルリと通り抜けていくだけです。

 実は今年の冬も、南極・スペイン基地へ調査に行く予定でした。 が、スペイン人の研究者から「国の財政状況悪化により、スペイン隊の南極行きが中止になってしまった・・・」という連絡をもらったのが、ちょうど7月真っ只中の北極にいる時でした。

そんなわけで、ここにきてついに私の連続隔年南極行は頓挫してしまったようです(これまでも単なる偶然や必然の仕業でこうなっていただけですけれど)。 それにしても、もろもろの研究計画を立てていた&心の準備をしていたので正直とても残念ですが、スペイン基地へは次のシーズンに期待したいと思います。

ということで、久々の「南極なう!」、 本日は「北極なう!」的特別番外編をお送りします。 北極と言ってもイロイロ。 人によって思い浮かべる場所は違うでしょう。

北極圏に領土を持つ国は全部で8カ国。 アメリカ、カナダ、ロシア、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、アイスランド、デンマーク(もちろん本土じゃなくグリーンランド)です。 陸地ではなく、北極海や北極点を思い浮かべる人もいるかもしれません。
私の調査地はどこかと言うと、ノルウェー北端の町トロムソからさらに北へ1000kmほど、北緯80度あたりに浮かぶスヴァールバル諸島のスピッツベルゲン島にあるニーオルスンという国際研究村です。

成田空港からデンマーク・コペンハーゲンに飛び、ノルウェー・オスロ、トロムソを経由してスピッツベルゲン島のロングイヤービンという町までは定期便の飛行機で行くことができます。 そして、ロングイヤービンからは10人乗り程度の小型飛行機をチャーターして30分ほどでニーオルスンに到着。 マトリョーシカのごとく乗り継ぐごとに飛行機が小さくなり、気づけば合計5つもの飛行機に乗ったことになります。

 とは言え、南極・昭和基地へは日本を出発してから1カ月もかけて辿り着くのに、なんと北極・ニーオルスンには3~4日間で着いてしまいます。 わーい!と思う半面、なんだか世界が狭くなってしまったような気がしてちょっと寂しくもあるのです。

しかも、南緯69度の昭和基地に比べて、ニーオルスンは北緯79度。 年間の平均気温は昭和基地がマイナス10.4℃で、ニーオルスンがマイナス6.2℃。 10度も高緯度に位置するのに、ニーオルスンのほうが4℃も暖かい。
ニーオルスンに降り立った瞬間、 「あ!ここなら生きていける!」 と感じてしまうのも無理はありません。

7月4日、小型飛行機で降り立ったスヴァールバルのツンドラの原野には、足首ほどの背丈しかない色とりどりの小さな花々が一斉に咲き乱れていました。 真夏の太陽で融け出した雪と氷河からできた無数の濁流がうねる大地、小さな虫が花の近くをひどく鈍い動きで飛び交い、トナカイやグースたちがコケや草花をムシャムシャと食み、ホッキョクギツネがウロウロ、空にはキョクアジサシがヒラヒラ。生き物たちの熱気で溢れ返っていました。

 

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◇◆ 第24回 「ただいま! そして、さようなら」 ◇◆

すっかり春ですね。

2012年3月19日の夕刻、ついに日本に帰ってきました。 草の薫り、春の匂い、街行く人々、行き交う自動車、ペンギン・アザラシではない動物(ネコやイヌ)・・・・周りのものすべてに対して不思議な感覚を抱きます。 空の色も、空気の匂いも、聞こえる音も何もかも南極とは違い過ぎて、どちらかの世界が夢や幻なのではないかと感じてしまうほどです。

通りを歩いても、咄嗟に人をよけるのが下手になっていてぶつかりそうになります。  見知らぬ人なのに、目の前からやってくる人になら誰だって、ついつい挨拶をしてしまいそうになります。 ふと気づくと、公園のベンチでハトを見ながらボーッとしていることがしばしばです。

ハタから見ればただの腑抜けかもしれませんが、そう、これが紛れもない、「南極病」です。

いわゆる普通の人間社会・文明とはあまりに違う南極という世界に長くいたせいで、街の生活に適応できないことや、俄然やる気が出てこないことを、私たちは南極病と勝手に呼んでいます。 帰国から1カ月~半年くらい、ほとんどの隊員がこの“病”にかかるんですよ、本当に。 人によっては1年経っても治らないという話もよく聞きます。

私など、道端で見つけたネコを触るために、自然と地面に寝転んでしまったりするのですが、道ゆく人々の奇妙な視線を感じてハッと我に返ることも何度かありました。

さて、話を昭和基地最後の夜に戻しましょう。 2012年2月18日に私は野外生活を終えて昭和基地に入り、3日間過ごしたのち、2月21日に昭和基地をあとにしました。

昭和基地を去る最後の夜には、越冬隊の仲間たちとの別れを惜しみ、基地のバーでは夜通しにぎやかな話し声が響いていました。 昭和基地最後の夜は通算3度目になりましたが、毎回、寂しいけれどとても楽しい夜になります。

 え?! 昭和基地にはバーがあるの?! と驚く方もいるかもしれません。

そうなんです、なんと昭和基地にはバーがあるんですよ。 と言っても、もちろんバーテンダー業務は隊員たち自らでやるわけですが。 さらに、毎日開店するわけではありません。 52日間にわたる野外調査を終えて昭和基地入りした私は、すっかり達成感と疲労感と安堵感と燃え尽き症候群を抱えた状態で気が抜けてしまっていたものの、最後の夜は、仲間の隊員が持ってきてくれた我が故郷・青森の酒を飲んで楽しく過ごしました。

これから1年間、越冬隊はほんの30名だけであの昭和基地で過ごすのかと思うと、なんとも言えない気持ちになります。 楽しんでね、頑張れよ、元気でね、という気持ちと、あの南極という世界のすべての季節を見て、そこで時間を過ごすことができることへの羨ましさが入り交じった気持ちです。 きっと1年後、みなたくましくなって、元気に帰ってくるのでしょう。

さて、昨年の11月末から約4カ月間にわたってこの「南極なう!」を連載してきましたが、そろそろ筆を置くときがやってきました。 これにて、南極なう!は終わりますが、私の南極研究はまだまだこれから。 ずっとずっと続いてゆくのです。採取してきたばかりの湖の中の植物や水のサンプルを使って、南極湖沼の生態系の遷移過程や進化史を追求することになります。 湖の底に設置してきたカメラから、また知られざる世界が見えてきたり、新しい発見があるかもしれません。

限られた人生の時間の中で、これから私は何度、あの大陸に立つことができるのでしょう。 また数年後、きっと降り立てる日が来ることを願って。

2012年4月1日 桜が開花し始めた東京・三鷹にて

 

 ・・・・・ 南極点到達競争 =壮絶な英国隊・スコットの遭難= ・・・・・・・

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◇◆ 第23回 「南極の湖に、いざ潜入!」 =2/2= ◇◆

 わずか水深10m。 ひとたび水中に入れば、こんなにも近い距離に、こんなにも信じられない世界が存在していることに私は心から感動を覚えたのでした。 なまず池には、湖底堆積物内に長さ2mの地温計(5個の温度ロガーが組み込まれている)を埋設しました。 長池の水中ビデオシステムと同様、2年後に回収する計画です。 また、アクリル製のチューブを用いて、湖底植物群集もいくつか採取しました。これらの試料は帰国後にさまざまな分析・測定をする予定です。

長池となまず池の潜水調査を実施した日、昼間でも気温はそれぞれマイナス4℃とマイナス6℃でしたが、水温はどちらの湖も約3℃。 水中のほうが温かい世界というわけです。と言ってもまぁ、3℃ですが・・・。

気温が氷点下になると、さまざまな問題が出てくるもので、今回は潜水しながら映像をおさめるべく持ち込んだ水中ビデオカメラが作動しなくなってしまいました。 2年前と全く同じものを使用したのですが、前回の潜水調査日は気温がプラスだったので、何の問題もなく作動していたのです。

 おかげで今回、作業風景や水中の様子の映像は撮影できず、一眼レフでの写真撮影だけとなってしまいました。 もちろん動かなくなるのは機械だけではありません。 寒さに強いことでおなじみの私ですが(え?!知らない?)、さすがに1時間も潜っていると指先はかじかんで動かなくなってきます。 陸に上がってからも、手袋を自力で脱げないほど手に力が入らない状態になってしまいます。

さらに、これはたいしたことではありませんが、湖から上がって潜水用のフードを脱いだ瞬間に髪の毛はパリッパリに凍ります。
これはきっと、世に言うところの「南極あるある」ですね。 もし私が湖から上がった直後に、髪の毛が束になって四方八方を向いていたとしても、それは寝癖でもお洒落を気取ったヘアスタイルでもなんでもなく、ただ凍っているだけなので、そっとしておいてあげてください。

 さて、これで今回の南極での野外調査はすべて終了。 早いもので、野外入りしてから52日間が過ぎていました。 このところ、日々急激に気温が低下し、1週間前に降り積もった雪ももはや融けなくなってしまいました。 小屋の周りは白い風景が広がっています。

 今日が、このSea Side Terraceきざはし最後の夜。 名残惜しいですが、明日にはここを撤収して昭和基地へ戻ります。

 ・・・・・ 南極点到達競争 =壮絶な英国隊・スコットの遭難= ・・・・・・・

 

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◇◆ 第23回 「南極の湖に、いざ潜入!」 =1/2= ◇◆

  2月、ついに湖の中に潜って調査をするというビッグイベントを行いました。 潜水調査1回目は2012年2月4日に「長池」という湖(この前、水中偵察のために落ちちゃったところ)で、2回目はほんの2日前、2月14日に「なまず池」という湖での実施となりました。 長池となまず池、どちらもスカルブスネス露岩域にある淡水湖です。

長池には2年前にも潜っていて、そのときに撮影した湖底の様子は前回にて紹介しました(次のページにもう一度掲載します)。 湖底には、タケノコのような不思議な形の植物群落が辺り一面に繁茂しています。 私たちは「コケボウズ」と呼んでいますが、大きいものだと高さ70~80cmもあり、その光景はまるで遥か昔に栄えた古代都市が朽ち果てて苔むし、遺跡となったかのようです。 ただ静かに、ひっそりと林立しています。

このコケボウズは、単に1種の植物によって出来上がっているものではなく、コケと数十種類もの藻類とシアノバクテリアとが共存して形作られているのです。 前回の調査で不思議だったのは、水深7.5mあたりの湖底を境に植物の風景が一変すること。 まるで森林限界が訪れたかのように変化するのです。

それぞれの湖底の植物はどのように成長しているのか? 水中の様子は年間通してどうなっているのか?

そんなことを観察するため、今回の潜水調査では風景のちがう2地点の植物群集に焦点を当てて、それぞれビデオカメラシステムを設置しました。 これから2年間を通じて湖底の様子を断続的に撮影し続けてくれるはずです。

  さて、長池調査の10日後はなまず池の潜水調査。 こちらは初体験です。 なんとそこには、長池とは全く違う光景が広がっていました。

午前10時55分、水面でボート上からサポートしてくれている仲間たちから湖底堆積物内に埋設する地温計を受け取り、  「バイバーイ。 行ってくるねー」 と、少しゆるい感じで手を振って地上の世界に別れを告げ、私は水中の世界にゆっくりと沈んでいきました。 上を向くと、風も無く、恐ろしいほどの透明度で、水中にいるのに太陽の光が眩しく、水上のボートがいつまでたってもくっきりと見えます。

どんどん潜行し、湖底が近づくにつれて、私の心はザワつき、震えました。 目の前には、まるで針葉樹林のような風景が広がってきたのです。

ツンツンと尖った高さ30~40cmほどの植物群落が湖底一面に広がるその風景は、タイガの森を遥か上空から見下ろしているような、そんなジオラマを見ているような、不可思議な世界に迷い込んだかのような気分にさせるのでした。

さっきまで自分がいた、地上の世界が嘘だったのではないかと上を見ると、くっきり見えていた仲間たちのボートまで、まるで飛行船のようにゆらゆらと漂っています。 ますます現実感が失われていきました。

 

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