ネアンデルタール人・絶滅の謎 =4/5=

Ӂ 長期連載:探検的・冒険的行動で世界を視座するフィルドワーク Ӂ

【この企画はナショジオ記載文趣“古代文明・歴史・冒険・探検”にその背景を追記・補講した】

〇● 現生人類と共存していた時代、ネアンデルタール人の身に何が起きたのか ●〇

なぜ彼らだけが滅びたのか

そのヒントはDNAと歯に隠されていた

◇ ネアンデルタール人 その絶滅の謎 =4/5= ◇

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歯の“年輪”から成長過程を探る

 2007年10月、仏グルノーブルの欧州シンクロトロン放射施設(ESRF)に研究者が集まった。目的は、ネアンデルタール人の生活史をめぐる大きな謎を探ることだ。彼らは現生人類よりも早く成年に達したのか。もしそうなら、脳の発達にも違いがあるかもしれないし、絶滅の原因解明に役立つかもしれない。その成長過程を知る手がかりは、歯に秘められている。

 歯の撮影には、ESRFにある「シンクロトロン型粒子加速器」を使う。粒子を加速させるリングの円周が1キロ近くもある、世界最大級の加速器だ。これを使えば、貴重な試料は無傷のまま、X線で骨の内部構造を詳しく解析できる。

 マックス・プランク研究所のユブランとターニャ・スミスは、コンピューターがずらりと並ぶ観測室で、画面に映し出される歯の画像に目をみはった。撮影しているのは、ル・ムスティエ遺跡で出土した若いネアンデルタール人の右上の犬歯(けん し)だ。そばの棚では、これから撮影される試料が出番を待っていた。クロアチアのクラピナで発見された13万~12万年前のネアンデルタール人の少年の顎骨(がっ こつ)2個、フランスのラ・キーナで発見された7万5000~4万年前のネアンデルタール人の若者の頭骨、そしてイスラエルのカフゼー洞窟で見つかった、歯がすべて残っている9万年前の2体の現生人類の骨だ。

 高解像度のX線画像で歯の内部を見ると、ちょうど木の年輪のように、歯の日々の成長と、より長期的な成長を刻んだ複雑な線が立体的に見える。この成長線を見れば、一生の中で大きなストレスを受けた時期がわかる。たとえば、出生時のストレスは、鋭い「新産線」としてエナメル質に刻まれる。乳離れの時期や、栄養不足などの環境ストレスも、成長中の歯にはっきりした痕跡を残す。

 「歯には、胎児から思春期を経て成長が止まるまでの、継続的な成長の記録が残されています」とスミスは説明する。人間はチンパンジーよりも、性的に成熟するまでに長い年月がかかる。何百万年も前にアフリカの草原地帯に暮らしていた化石人類は、私たちよりもチンパンジーに近く、早く成年に達した。人類の進化の歴史で、今のように成熟年齢が遅くなったのは、どの時点のことなのだろうか。

 この疑問を解き明かそうと、スミスらはモロッコのジェベル・イルード遺跡で出土した初期の現生人類の子どもの歯(約16万年前)をシンクロトロンで調べたことがあった。結果は、現代人と同じ成長パターンを示した。これとは対照的に、ベルギーのスクラディナ洞窟で見つかった10万年前のネアンデルタール人少年の歯には、この少年が8歳で死んだこと、死ななければ、現代人の平均よりも数年早く成年になっていたことを示す痕跡が認められた。一方で、ほかのネアンデルタール人の1本の歯を調べた別の研究チームは、現生人類と成長パターンの違いは認められなかったと報告している。

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 今回スミスらが撮影した画像の解析は完了していないが、現段階では、スクラディナ洞窟のサンプルと矛盾しない結果が出ているそうだ。

 成年に達する時期が早いということは「ネアンデルタール人の社会集団の構造、生殖や子育ての行動に確実に影響を与えます」と、ユブランは話す。「現代人の平均よりも4歳早く子どもをつくる社会を想像してみてください。今の社会とはかなり違うはずです」

わずかな差が命運を分けた

 技術や社会構造、伝統文化といった、集団生活から生まれる要素は、厳しい環境の影響を和らげて、集団の生存力を高めると考えられている。ネアンデルタール人の社会は、この点でも、私たちとは異なっていたかもしれない。

 たとえば、アフリカから移動してきた現生人類の集団では、男が大型の獲物を追って狩りをし、女や子どもは小動物をつかまえ、木の実や植物を採集する分業が成立していた。アリゾナ大学のメアリー・スタイナーとスティーブン・クーンによれば、こうした効率的な狩猟採集の方法が、食生活を多様にしていたという。

 一方、ネアンデルタール人は、イスラエル南部からドイツ北部までの遺跡調査で、ウマ、シカ、ヤギュウなど、大型から中型の哺乳類をとらえる狩猟生活にほぼ完全に依存していたことがわかっている(地中海沿岸では貝も食べていた)。植物も少しは口にしたようだが、植物を加工して食べた痕跡が見つかっていないことから、スタイナーらは、ネアンデルタール人にとって植物は副食にすぎなかったとみている。

 ネアンデルタール人のがっしりした体を維持するには、高カロリーの食事が必要だった。特に高緯度地方や、気候が厳しさを増した時期には、女や子どもも狩猟に駆り出されただろう。腕や頭の骨に折れた跡が多く見られることから、狩りは「荒っぽく危険な仕事」だったと、スタイナーらは論文で述べている。

 片や、現生人類は集団内で分業が成立し、食生活が多様化していたので、リスクを分散できたはずだと、スタイナーは語る。「そのおかげで、妊婦や子どもが守られたのです」

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//////参考資料///////

Ӂ 補講・ネアンデルタール人(Neanderthal) 4/7 Ӂ

単一起源説の登場と分子生物学における研究

ネアンデルタール人をホモ・サピエンスの祖先と見る立場の場合、ネアンデルタール人からホモ・サピエンスへの進化は世界各地で行われたと考える(多地域進化説)。これに対し、ウィリアム・ハウエルズ (William White Howells) は1967年の著書Mankind in the makingにおいて、単一起源説を主張し、ネアンデルタール人はホモ・サピエンスの祖先ではないとした。

1997年にはマックス・プランク進化人類学研究所スヴァンテ・ペーボらがフェルトホッファー洞窟で見つかった最初のネアンデルタール人の古人骨からDNAを抽出し、ホモ・サピエンスとの関係を検討した研究を発表。ネアンデルタール人をホモ・サピエンスの祖先とする立場は否定された。

ネアンデルタール人類の特徴(1/2)

典型的なネアンデルタール人類の骨格は、上記のラ・シャペローサンからほとんど完全な老年男性のものが発見されたほか、西アジアや東欧からも良好な化石が出土している。それらに基づくネアンデルタール人類の特徴は次のようなものである。

  • ネアンデルタール人の容量は現生人類より大きく、男性の平均が1600 cm3あった(現代人男性の平均は1450 cm3)。しかし、頭蓋骨の形状は異なる。脳頭蓋は上下につぶれた形状をし、前後に長く、は後方に向かって傾斜している。また、後頭部に特徴的な膨らみ(ネアンデルタール人のシニョン)がある。
  • 顔が大きく、特に上顔部が前方に突出して突顎である。鼻は鼻根部・先端部共に高くかつ幅広い。これらの形質に呼応して上顔部は現生人類のコーカソイドと同じか、さらに立体的(顔の彫が深い)である。顔の曲率を調べる方法の一つとして「鼻頬角(びきょうかく)」があり、これは左右眼窩の外側縁と鼻根部を結ぶ直線がなす角度で、コーカソイドで136度から141度であり、モンゴロイドでは140度から150度であるが、ネアンデルタール人類では136.6度であった。他に、の部分が張り出し、眼窩上隆起を形成している。また、(おとがい)の無い、大きく頑丈な下顎を持つ。
  • 現生人類と比べ、の奥(上気道)が短い。このため、分節言語を発声する能力が低かった可能性が議論されている。

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・・・・・つづく

 

・・・・・ ナショナルラジオ!・・ネアンデルタール人の衰退!・・・・・

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