探究の地球学者《高井 研》 =019=

○◎ “私が知りたいのは、地球の生命の限界です”  ◎○

冥王代(約40億年前)から現在に至る地球と生命の共進化の解明をめざす=高井 研=

【原資: Webナショジオ“、高井研の対談集、高井研のブログ、等々より転載・補講】

Ӂ 自身のTwitterなどで“1031”(てんさい/天才)を使う宇宙生物学者 Ӂ

 019回 第一話 実録! 有人潜水艇による深海熱水調査の真実   

◇◆ その4 その瞬間 稲妻が走った =3/3= ◆◇ 

2009年10月のインド洋。高井研を乗せた「しんかい6500」は、いよいよ水深2600mの海底に到着した。熱水噴出孔に近づくにつれ、深海の生き物の密度が濃くなってくる。そして、目の前に現れたのは・・・・・・

ヤナギタニさんのベタ付け駐車がマゴマゴしている。やばいぞやばいぞ「イラッ感」がわき起こってきた。ヤナギタニさん「なんかねー。うまく行かないんですよぉー。モゴモゴ」と弱音を吐く。

どうやら表情には表れていないが、あまりに時間がないというプレッシャーに軽くパニックを起こしかけていると案じた瞬間、イイジマさんが素早く言った。

「ヤナギタニ!代われ!」

潜航の編成上は、パイロットがキャプテンであり、最終意思決定者である。しかし、今のコックピットには、元しんかい6500潜航長だったベテランのイイジマさんがおり、そのイイジマさんがここは「自分がやった方がうまくいく」と判断したのだ。まさしく、ボクも同じ言葉を口にするところだった。

代わったイイジマさんはすかさず、しんかい6500をバックさせ、右側から再突入して、わずか5分でベストポジションにしんかい6500を着底させた。見事!ベストポジションで、映像をとり、写真をとり、採水・チムニー周りの生物採取をてきぱきこなす。

そして、採水中、イイジマさんと場所を変わり、ボクは真正面の特等席の観察窓から、目の前1mで、もうもうと噴き出すやや黒みを帯びた透明な熱水噴出を眺めることができた。

至福ナリ!視福ナリ!このパイロット用観察窓から見える深海の風景に勝る風景をボクは思い付かない。ボクの陳腐な文章では、ホントに表現しきれない。ずっと見ていたい。ただそれだけだ。

「よこすか」からは、「どうなっているか状況を知らせよ!」という通信がくる。たとえ「今すぐ、浮上せよ!」という指令がきても、ボクが今パイロットだったら「誰が浮上するか。もうちょっとこの風景を堪能してから・・・・・・」と言うに違いない。そして、十分幸せな気持ちで満たされてから、本来の指定席であるヤナギタニさんと交替する。もう十分落ち着いているので大丈夫だ。

それからボクらは、いつ「浮上せよ!」と言われてもいいように、見つけたばかりの白いスケーリーフットやアルビンガイや、様々な生物をなるべくたくさん採取した。現実には、広さ100m~200m四方ぐらいの熱水域の、ほんの20mぐらいしか観察できなかったわけだが。そして、着底してからわずか1時間半後に、「今すぐ浮上せよ!」という指令がきた。

ボクらは名残惜しい気持ちでいっぱいだったけど、ホントにベストを尽くしたこの潜航調査には、とても充実した気持ちだった。最後の最後のチャンスで、最大の目的をギリギリ達成することができた。

ヤナギタニさんが熱水域から30mぐらい離れて、「バラスト投棄!」と言いながら、重りを捨てた。するとボクらをのせたしんかい6500は、一瞬体が押しつけられる感覚とともに、みるみるうちに海底から遠ざかり、浮上を始める。

海底が見えなくなった。ボクは痛くなった首を伸ばしながら、張り付いていた観察窓から顔を離す。そして、浮上準備をする二人の仲間に目を移した。

今日という日を忘れないだろう。

朝からこんなにドキドキ、ハラハラ、ヤキモキ、ソワソワ、ビリビリ、ウヒョウヒョ、グッタリした日はなかった。コックピットの3人は、体に感じる疲労感と、それでも体の芯に残る高揚感を隠せない。浮上までの1時間半、ボクらにはたっぷり時間はある。イイジマさんが取り出した熱いコーヒーの素晴らしい香りと、ボクの取り出した「きのこの山」の甘いチョコレートの香りを楽しみながら、ワイワイ反省会だ。

さあ帰ろう。船上ではみんなが、ボクらと楽しみなサンプルの帰りを今か今かと待っているはずだ。

=補講・資料=

しんかい6500・その二(2/3)

船体形状は、ほぼ円形断面であったしんかい2000に対し、しんかい6500は沈降方向に長い楕円形になっている。パイロット2名、研究者1名が乗り込む船体前部の耐圧殻(たいあつこく)は内径2m、床面1.2mで、従来の高張力鋼に代わりチタン合金で作られており、約68MPaの水圧にも耐えられるように73.5mmの厚みを持つ。耐圧性能を高めるために極力、真球に近い形状となっており、誤差は0.5mm以内に収められている。酸素など5日間は生命維持ができるようになっている。

耐圧球の前方(パイロット用)と側方左右の合計3箇所には、メタクリル樹脂(アクリル樹脂)製の覗き窓(7cm厚の2枚重ねで計13.8cm)が設置してある。潜行では水圧で最大約9mm凹む。実験では深度約4万メートル相当の水圧で割れているため、地球上の深海において水圧が原因で割れることはない。ハッチは直径50cmでOリングパッキン)がはめられている。人はもちろん、研究機材などもこの直径より大きな物は積み込めないため小型の物や分離・組み立てができる物に限られる。

船内にはトイレはないため簡易トイレ」を持ち込む。食事は各々が弁当やサンドイッチなどを持ち込む。以前は万が一、事故などが起こり生還が絶望的になった場合の最期に飲む酒が持ち込まれていた。1年の終わりにその酒の封を開け無事を喜んでいたが現在では酒類の持ち込みは一切禁止となっている。しんかい2000にあったパイロット用の座席は採用されていない。

船体建造に先だって実物大模型を制作し、居住性、操作性、整備上の評価と検討が行われた。

・・・・つづく・・・

・・・・・ 硫化鉄の鎧を身にまとった巻貝~スケーリーフット~  ・・・・・

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