睡眠の都市伝説の真意 =156=

☆彡 睡眠の都市伝説を斬る =三島和夫・睡眠研究者= 彡☆

【この企画は“Webナショジオ・連載/睡眠の都市伝説を斬る”に追記補講した】

睡眠時間の男女差について =2/2=  

​​睡眠研究=1

 それでも、数多くの調査結果を総合的に判断すると、必要睡眠時間に男女差があるとの証拠はない。「女性の方が寝不足に強い」などということはないのである、男性諸氏。したがって、先の「女性は睡眠時間が短くても大丈夫なんでしょうか」という質問には「そんなことはございません」、「女性も男性と同程度に睡眠時間は必要です」と神妙にお答えするようにしている。

確かに女性に特有の睡眠問題はある。例えば、月経1週前頃(黄体後期)から月経中にかけて睡眠の質が低下し、眠気やだるさが強くなる女性は少なくない(約30%前後)。これは女性ホルモンであるプロゲステロンの増加や体温上昇が影響し、深い睡眠(徐波睡眠)が減少するためと考えられている。

子供の睡眠では深い睡眠の比率がとても大きく、脳の発達過程で神経シナプスの選別(刈り込み)に貢献しているとされる。深い睡眠は成長とともに急速に減少するが、女子の方が早く減少が始まる。これは女子の方が性的成熟や大脳皮質の発達が早いことと関係しているらしい。

しかし、発達途上で見られるこれら睡眠の性差も徐々に消失し、月経周期に関わる若干の変動はあるものの、成人の睡眠時間の男女差はほとんどなくなることがこれまでの研究で明らかになっている。むしろ壮年期(30代、40代)では男性よりも女性の方が寝つきが良く、睡眠時間が長いという報告すらある。

閉経(50歳前後)を迎えた女性の30〜40%が悩まされる更年期障害では不眠がよくみられる。これは、のぼせ、ほてり、発汗など(血管運動神経症状と呼ばれる)による。ただし、これらの症状が目立たない通常の更年期では、睡眠ポリグラフ試験で測定した睡眠時間や睡眠構造にはさほど大きな変化は(男女差も)認められない。

ではナゼ日本の女性の睡眠時間が短いのかとさらに突っ込んだ質問を受けると返答に窮する。「女性が家事の負担を多めに抱えているなど社会慣習のためだと思います」などとしどろもどろになり、「かく言う我が家も……」と自白させられ、ついには「体質的な違いがないのに北欧で女性の睡眠時間が長いのも不思議な話で……」などと余計なことを口走って顰蹙(ひんしゅく)を買ったりする。

実際のところ、女性の睡眠時間が短い国、長い国でそれぞれ共通した社会慣習があるわけではなく、日本の女性の睡眠時間が短い真の理由は不明である。短い国のメンツを見ると男性の家庭でのあり方に問題があるのではないかと不安になるが。

余談ばかりになってしまった。

睡眠時間には体質的な男女差はほとんどないにもかかわらず実生活での睡眠時間では違いが存在する。その背景要因は複雑だ。睡眠時間には、季節、日照などの環境要因や体格、体力などの個体要因も深く関連する。

例えば、健康な人でも日照時間が短くなる冬季には睡眠時間が長くなる(第13回「もっと光を! 冬の日照不足とうつの深~い関係」)。特に北欧やカナダのような高緯度地域では日照時間と連動して睡眠時間の季節変動も大きい。当然、年間を通した平均日照時間も短い。

また、気分、睡眠、食欲の季節変動が極端に大きくなる冬季うつ病と呼ばれる気分障害があるが、この病気は女性に圧倒的に多い。女性の方が日照の季節変動に敏感なのかもしれない。

これはあくまでも仮説だが、北欧など高緯度地域の国々の日照時間の短さや季節変動が女性の睡眠時間が長いことに影響しているのかもしれない。

次回は、女性に多い睡眠障害についてご紹介する。

睡眠研究=2

=資料・文献=

眠りの“男女差”に異変!? 日本の最新睡眠事情とは(2/2)

実は、先述の「NHK生活時間調査」最新の2010年の報告書(※2)では、「男性の方が女性よりも長く眠る」という結果ながらも、若年層の間でその差が縮まってきたとの報告がありました。今回の「日本ノ睡眠ヲ解明スル!」調査では、その傾向がさらに進み、女性の平均睡眠時間が男性のそれを上回ったことを示唆するものになったようです。

この変化の背景として考えられるのは、やはり女性の社会進出。 より責任のある仕事に従事する機会が増えたことによって、家庭での役割にも変化が表れていると考えられます。あるいは、これまで以上に長い「脳の休息」を必要とする女性が増えているの可能性も。

また、最近は睡眠の重要性が改めて見直されています。特に美容面に与える影響について、女性誌などで特集されることも多く、女性の「睡眠を重要視する意識」が、より高まっているのかもしれません。 長年の日本の睡眠傾向が逆転した、今回の調査結果。「女性の平均睡眠時間>男性の平均睡眠時間」という傾向がより顕著になっていくのかどうか、今後の日本の睡眠事情に注目したいですね。

睡眠研究=3

=== 続く ===

前節へ移行 ; https://thubokou.wordpress.com/2017/11/21/

後節へ移動 ; https://thubokou.wordpress.com/2017/11/23/

 ※ 下線色違いの文字をクリックにて詳細説明が表示されます ⇒ ウィキペディア=に移行
*当該地図・地形図を参照下さい

—— 姉妹ブログ 一度、訪ねてください——–

【疑心暗鬼;民族紀行】 http://bogoda.jugem.jp/

【浪漫孤鴻;時事心象】 http://plaza.rakuten.co.jp/bogoda5445/

【閑仁耕筆;探検譜講】 http://blog.goo.ne.jp/bothukemon